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Christophe RENOU 特別来日講習会
2015年6月30日、世界を代表するフランスのチョコレートメーカー「ヴァローナ」の講習会が、ドーバー洋酒貿易講習会場(代々木上原)にて開催されました。

今回の講師は、2015年3月にMOF(フランス最優秀職人賞)を受賞したばかりで、現在世界で最も注目されているパティシエの一人、Christophe RENOU(クリストフ・ルヌゥ)氏。さらにこの日は、ヴァローナの新商品「イランカ63%」が発売される直前ということもあり、会場には非常にたくさんの製菓関係者が集まりました。

冒頭では、クリストフ氏のプロフィールと共に、講習会のテーマが発表されます。今回のテーマは「ラシーヌ(根源)」。このラシーヌという言葉は、クリストフ氏がMOFコンクールに挑む際に、MOFのテーマとは別に自分自身のテーマとして掲げていた言葉で、自分自身のクリエイティブの源になるものを再確認して新しいもの創り出そうとする考えから生まれました。

今回の講習会では、全6作品のデモンストレーションが行われましたが、これらの作品はMOFコンクールのファイナルとセミファイナルで実際に使用したレシピの中からピックアップされたもの。どちら作品もMOFコンクールの課題やテーマを元に構成されているので、そちらと合わせてそれぞれの作品を紹介していきます。
LE TROIS QUART(ル・トロワ・カール)
1作品目は印象的なデザインの焼き菓子「LE TROIS QUART(ル・トロワ・カール)」。こちらの作品は、「2つの食材・2つの食感」と「常温で5日間、品質が変わらない」というMOFコンクールの課題を考慮して作られています。

まず一つ目の課題である「2つの食材・2つの食感」の「2つの食材」には、レモンとプラリネを選択。レモンの爽やかな香りとプラリネのナッティーな風味の組み合わせが、こちらの作品の味のベースとなります。さらに「2つの食感」には、プラリネとエクラ・ドール(クレープ・ダンテル)を組み合わせたものを生地の中に入れることで、焼き菓子生地のしっとりとした食感と、プラリネとエクラ・ドールのサクサクした食感をそれぞれ取り入れて、課題をクリアしています。作品断面に見える3つ丸い部分が、プラリネとエクラ・ドールを組み合わせたものになります。

もう一つの課題である「常温で5日間、品質が変わらない」について。この課題をクリアする為に、本当にたくさんの試作を重ねたというクリストフ氏。その試作の結果、ケイク生地に普通のバターではなくヴァローナ・リキッドバターの使用を選択します。リキッドバターは、特別な精製を行う事で、バターに含まれる水分量を0.1%以下に抑え、常温でもリキッドの状態を保てるバター。このバターを生地に配合することでやわらかさを実現、生地中の水分量を減らして生地の状態や品質の変化を抑えています。

そしてこの作品を語る上で外すことが出来ないのが、その独創的なデザインです。このデザインは、「Picasso Sucré(甘いピカソ)」というMOFコンクールのテーマを元に、芸術家ピカソの「キュービズム」という手法を作品の形に取り入れているとクリストフ氏は解説します。作品の表面は、型の内側に幾何学模様に切り抜いたシルパットを貼り付けて焼成し、焼成後にリキュールと金粉を混ぜ合わせたものを塗ることで模様をつけています。

完成したル・トロワ・カールは、大変しっとりしていて口溶けの良い仕上がり。一般的なイメージの焼き菓子とは少し異なるなめらかな口当たりです。ベースのケイク生地はウィークエンドのような味わいで、後から生地の中に配置されたプラリネのナッティーな風味が感じられます。全体的に軽い仕上がりで、奇抜な見た目とは裏腹にさっぱりとした印象の焼き菓子となっています。
LE SACHER ENROULÈ(ル・サッシェール・アンルレ)
2作品目は「LE SACHER ENROULÉ(ル・サッシェール・アンルレ)」。サッシェールとはザッハトルテの生地を意味しており、その生地からインスピレーションを受けた作品です。こちらの作品と次に紹介する3作品目「LE FRAISIER(ル・フレジェ)」は、共にバームクーヘンのようなスパイラル状の形をしていますが、これは「型を使用しないアントルメ」というMOFコンクールの課題に基づいて作られています。

作品のベースとなるビスキュイ生地は、共立て法で小麦粉まで混ぜ合わせたものにメレンゲを加える「共立て法+別立て法」で作ります。この手法を用いることで、しっとり柔らかな質感ながら、強度のある生地に仕上がるとクリストフ氏は解説。モンタージュの際に必要な柔軟性と強度を兼ね揃えた生地に仕上げます。

生地には2層のガナッシュを重ねますが、どちらのガナッシュにも2015年7月よりヴァローナより新しく発売されたクーベルチュール「イランカ63%」を使用していきます。1層目のガナッシュは、なめらかな食感に仕上げたスタンダードなガナッシュ。丁寧に乳化させて作ります。2層目のガナッシュは、一度通常のガナッシュを作り結晶化させた後に、同量の生クリームを加えてからふんわり泡立てて、1層目とは違った食感に仕上げます。共にあらかじめシロップをアンビバージュしておいたビスキュイ生地の上に伸ばし、冷やし固まったところで帯状にカットします。

カットした生地は、スパイラル状に巻き込みながらモンタージュを行います。底になる面には焼成したサブレとフィユタージュにエクラドールとオパリスを混ぜ合わせたクルスティヨンを貼り付けてサクサクした食感をプラス。一度冷凍してからアプソリュ・クリスタルで表面をピストレして完成です。

作品のベースとなっているビスキュイ生地は、弾力のある食感と甘めの味わい。一方、イランカを使用したガナッシュは、なめらかな口溶けとビターな味わい。この対照的な二つのパーツがそれぞれの特徴を引き出して見事な食感と味わいを形成します。底生地に配置されているクルスティヨンは、フィユタージュを混ぜることで歯切れの良い食感になり、作品全体に軽い印象を与えます。「型を使用しないアントルメ」という難しいMOFコンクールの課題を見事なアイデアで乗り越えた素晴らしい作品となりました。
LE FRAISIER(ル・フレジェ)
3作品目は「LE FRAISIER(ル・フレジェ)」。その名からも分かるように伝統的なフランス菓子「フレジェ」の味わいを組み立て直して作られた作品です。作品の構成は2作品目のル・サッシェール・アンルレと同じですが、こちらはフレジェということなので、フルーティーに仕上げていきます。

ビスキュイは2作品目と同じように柔軟性と強度のある生地に仕上げますが、バニラ粉末を加えて香りをプラスし、焼成後にイチゴ果汁のシロップをアンビバージュします。ビスキュイの上にはフレーズ・デ・ボワのコンフィチュールを配置。コンフィチュールは、フレーズピューレとフランボワーズピューレを混ぜ合わせることで、甘くなり過ぎないように味を調えています。さらにその上には、オパリスとオレンジフラワーウォーターのガナッシュを重ね、冷やし固まったところで帯状にカットします。

モンタージュも2作品目と同じように生地をスパイラル状に巻き込みながら進めていきますが、こちらの作品は各パーツの色合いがはっきりしているので、大変きれいな層に仕上がります。底生地になる面には、やはりクルスティヨンを貼り付けます。こちらのクルスティヨンには、バニラとライム果皮の風味を加えて華やかな香りを演出します。

完成した作品は、大変風味豊かな仕上がり。フレーズ、オレンジフラワーウォーター、オパリス、バターの香りがふわっと広がります。コンフィチュールとガナッシュは甘さを控えて作られているのでさっぱりとした味わい。後味としてかすかに感じられるライムが作品全体を引き締めます。クラシカルな作品からインスピレーションを受けて、新しい作品として表現するクリストフ氏の情熱が感じられる作品です。
LA BOURDALOUE(ラ・ブルダルー)
4作品目は「LA BOURDALOUE(ラ・ブルダルー)」。こちらの作品は、「加熱したフルーツタルトを一品作る」というMOFコンクールの課題を受けて、フランスではポピュラーな「タルト・ブルダルー(洋梨のタルト)」を元に考案されたタルト菓子です。

一般的にタルトというと円形や長方形のものをイメージしますが、こちらのラ・ブルダルーの形は大変独創的。この独特の形は、1作品目と同様に「Picasso Sucré(甘いピカソ)」というMOFコンクールのテーマを元に、一人分の大きさのタルトを様々な方向から組み合わせることで形成されています。

タルト部分にはサブレ生地を使用。なるべく生地をこねる回数を減らし、小麦粉のグルテンを抑えて作ります。出来た生地は型にフォンサージュしていきますが、型の底面が完成時の上面になるように「逆さ」に仕込んでいきます。まず型の底に生地を敷き込み洋梨の形に生地を抜き、半球状の洋梨の形をしたシリコン型を詰めます。次に帯状にカットした生地をタルト型の側面に貼り付けた後、ヴァローナP125を使用したアパレイユを流し入れます。最後にあらかじめ予備焼成しておいたシュトルーゼルを底生地になるように敷き詰め、焼成してタルトの土台が完成。

焼成後は、天地を返してから洋梨の形をしたシリコン型をはずし、くぼんだ箇所に洋梨のコンポートを絞り入れます。そして仕上げとしてタルトの上にイランカのガナッシュ・モンテを絞り、アクセントとしてアーモンドのクロッカンを散らして作品の完成となります。

完成した作品は、力強いチョコレートの風味とポワールのフレッシュな風味がマッチした味わい。サクサクしたタルト生地とシュトルーゼルの食感、アパレイユのしっとりとなめらか口溶け、ポワールのコンフィチュールのシャキシャキした歯触りがそれぞれ楽しめるタルトに仕上がりました。
LE BABA(ル・ババ)
デモンストレーションも後半を迎えた5作品目は「LE BABA(ル・ババ)」。こちらの作品も「ババを一品作る」というMOFコンクールの課題を受けて考案されました。作品の形状は、4作品目のラ・ブルダルーと同様、一人分の大きさのババを様々な方向から組み合わせて作られています。

伝統的なババは、ラムのアルコールをたっぷり効かせますが、現代的なスタイルに仕上げたかったというクリストフ氏のアイデアで、ラムはなるべくアルコールを飛ばして香りだけを活かし、トロピカルフルーツの香りと組み合わせた作品にアレンジしています。

作品のベースとなるパータ・ババは、仕上がりの生地温度に気を付けながらブリオッシュ生地の要領で仕込み、絞り袋を使って型に絞ります。型に絞る際には、ラ・ブルダルーと同じように三角形のシリコン型をはめて三角形のくぼみを作り、そのまま発酵、焼成を行います。焼成後は、パイナップルとユズで香り付けをしたアンビバージュ用シロップに、片面1時間30分ずつゆっくりと時間をかけてシロップを染み込ませます。

シロップを染み込ませたものは、三角形のシリコン型をはずし、くぼみ部分にパイナップルのマーマレードを絞り入れます。こちらのマーマレードは、パイナップルの食感を損なわないように注意をしながら丁寧に火を入れ、ゲル化剤の変わりにコーンスターチを使用してとろみをつけています。そして最後に仕上げとして、ラムとライムで香り付けをしたオパリスのガナッシュをババの上に絞って作品は完成。

こちらの作品中に使われているラム酒、ライム、パイナップルという素材からもイメージ出来るように、とても爽やかでエキゾチックな風味のババです。ラムは極力アルコールを飛ばして香りだけを抽出しているので、風味豊かながら強いアルコールは感じられません。ゆっくりと時間をかけてシロップに浸した生地は、中までしっかりとシロップが浸透していますが、水っぽくなく生地の食感が楽しめます。暑い季節にぴったりの夏向けババといった印象の作品です。
MERVEILLEUSEMENT(メルヴェイユーズマン)
講習会もいよいよ最後の作品「MERVEILLEUSEMENT(メルヴェイユーズマン)」を迎えます。こちらの作品は、フランス北部の伝統菓子「メルヴェイユ」をクリストフ氏流にアレンジしたもの。本来のメルヴェイユは、焼いたメレンゲの上にシャンティを乗せて、コポーショコラなどをまぶした素朴なお菓子になるそうです。

作品の構成は、ヘーゼルナッツ刻みを表面にまぶして焼き上げたメレンゲを器にして、カシスのコンフィチュール、プラリネのシャンティ、カシスのパート・ド・フリュイをタワー状に組み合わせています。

器となるメレンゲは、グラニュー糖と純粉糖を半量ずつ使用して作ります。純粉糖を使う理由としてクリストフ氏は、仕上がりの口溶けが良くなり、甘みの印象が軽くなると解説。完成したメレンゲは、半球のシリコン型の裏面に絞り焼成し、器の形に仕上げます。器の中に入れるカシスのパート・ド・フリュイは、カシスの風味を引き立てる為にフランボワーズピューレを少量加えています。さらにノワゼットのプラリネも配合する事で、モンタージュの際に組み合わせるプラリネのシャンティーとの親和性を高めています。

完成したメルヴェイユーズマンは、メレンゲのサクサク感、シャンティのクリーム感、パート・ド・フリュイのねっとり感という3つの要素が楽しめる作品。口溶けにこだわって作られたメレンゲは、ひと口食べると細かく砕けて、甘みを残してサッと消えて無くなります。余韻として残るヘーゼルナッツの香ばしい風味が秀逸。作品の元になったメルヴェイユの素朴なイメージは残しつつも、複雑な味のコントラストが形成されている見事な一品です。
以上でクリストフ・ルヌゥ氏による講習会は終了となります。MOF受賞直後のパティシエが実際のコンクールで使用したレシピをデモンストレーションするという大変貴重な講習会内容に、受講者の方々も大変満足したことでしょう。

講習会終了後に行われたプレスカンファレンスの中で、エコール・ヴァローナ東京のエグゼクティブ・シェフ、ファブリス・ダヴィドゥ氏は、パティシエとしての優れた技術・知識と共に、優れた人格を持つクリストフ氏がMOFを受賞する事を確信していたので、彼がコンクールに出場を決めた段階で日本でのデモンストレーションを依頼していたと語ります。

これからはトリコロールのシェフコートを着る責任と共に、更なる創作活動を続けるクリストフ氏。近い将来には、また日本でのプロジェクトを予定しているということなので、今後の活躍に注目です。
Christophe RENOU(クリストフ・ルヌゥ)
Christophe RENOU(クリストフ・ルヌゥ)氏
メーヌ・エ・ロワール県のブーランジェリー、パティスリーで修業、17歳の時「フランス・パティシエ最優秀見習い」に選ばれる。その後スイスに渡り、ルレ・デセールの名店「ルシアン・ムタルリエ」で5年間の月日を過ごす。2007年クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーにスイスチームとして出場、5位入賞を果たす。2009年にヴァローナ・エコール・デュ・グラン・ショコラの一員に加わり、製菓技術指導を精力的に担当する傍ら、2010年シャルル・プルースト杯で優勝を果たすなど、コンクールに取り組み、豊かな経験を築き上げる。そして2015年3月、MOF(フランス最優秀職人章)をパティシエ・コンフィザー部門で受賞した。
ILLANKA イランカ63%(ブラック・チョコレート)
ILLANKA イランカ63%(ブラック・チョコレート)
ペルー北部に位置するピウラ地方だけで育つ、極めて稀な白いカカオ豆「グラン・ブランコ」を使用したブラックチョコレート。ブラックベリーやブルーベリーを思わせる酸味に続く、ローストしたピーナッツのようなアロマと力強いカカオ感、クリーミーな質感が特徴。

【ILLANKAイランカ63% 商品ページ】
http://store.tfoods.com/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=15327
ヴァローナ
ヴァローナ(VALRHONA)社について
1922年フランス、ローヌ地方の菓子職人が創業。 カカオの品種や産地別に分類した商品をいちはやく展開した世界トップクラスのチョコレートメーカー。 超一流洋菓子店、レストラン、ホテルご用達の製菓材料であり、個性的な商品構成は、 その商品名が時にケーキやドリンクの名前にも付けられるほどの存在感です。 2007年には、フランスに次いで世界で2校目になるショコラの専門技術学校を、東京に設立。 さまざまな研修プログラムが用意されている。

ヴァローナ・ジャポン
http://www.valrhona.co.jp/
ヴァローナ オンライン・ブティック
http://boutique.valrhona.co.jp
エコール・ヴァローナ 東京
http://www.valrhona.co.jp/ecole/
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