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ヴァローナ主催 フレデリック・ボウ(Frédéric BAU)特別講習会
2018年6月〜7月にかけて、世界を代表するフランスのチョコレートメーカーであるヴァローナが主催するフレデリック・ボウ(Frédéric BAU)氏による特別講習会が約500名のプロフェッショナルのお客様に向けて行われました。

講師であるフレデリック・ボウ氏は、ヴァローナの研修機関「エコール・デュ・グラン・ショコラ」の創設者であり、現在はヴァローナ・クリエイティブ・ディレクターとしてヴァローナ文化を牽引する人物です。そのパティスリーに対する哲学や精神はチョコレートメーカーの領域を超え、世界中のパティシエ達に多大なる影響を与え続けています。

そんなボウ氏が来日するのは実に6年振り。ヴァローナ・クリエイティブ・ディレクターに就任して以降、ボウ氏による講習会や研修は行っていませんでしたが、今回の講習会ではヴァローナより2018年9月に日本で新しく発売される世界初の“フルーツ・クーベルチュール” 「インスピレーション」という非常に特殊な新製品を取り上げる為、ボウ氏自ら講師を務める運びとなりました。

講習会のテーマはヴァローナの新製品である「インスピレーション」になぞらえて“L’art , sourced’ inspiration(芸術、インスピレーションの湧泉)” 。このテーマについてボウ氏は、「日本のパティスリーは非常に素晴らしい技術を持った職人がたくさんいる。しかしクリエイションに関してはフランスの職人に比べておとなしい印象を受ける。日本のことわざに『出る杭は打たれる』という言葉があるが、職人はそれぞれの個性を出さなければならない。その為にも、この講習会ではオリジナリティのあるお菓子を作る“インスピレーション(閃き)” を受講者全員で一緒に考えていきたい。」と解説します。

講習会ではボウ氏がどのような“インスピレーション(閃き)” で作品を考案したのかという点を重視しながら、全7品の作品を披露。通常の講習会の様に、レシピを順々に追ってお菓子を作るだけではなく、ボウ氏のクリエイティブな世界観を体感することの出来る特別な講習会となりました。
ヴァローナ・インスピレーション・シリーズ(VALRHONA INSPIRATION)
ヴァローナより2018年9月に日本で新しく発売される世界初の“フルーツ・クーベルチュール” 「インスピレーション」。このシリーズは、カカオバターと砂糖に本物のフルーツを掛け合わせたまったく新しいカテゴリーの製品です。原材料にカカオマスや粉乳は配合されておりませんので、ブラック、ミルク、ホワイトチョコレートとも異なります。

ラインナップは、「フレーズ(ストロベリー)」、「パッション(パッションフルーツ)」、「アマンド(アーモンド)」の3種類。原材料には全て天然由来のものだけを使用し、さらに保存料・着色料・香料は不使用です。クーベルチュールならではの非常に滑らかなテクスチャー(口溶け)でありながらも、食べた瞬間から感じられるフルーツのフレッシュで力強い味わいと鮮やかな色合いは、まさに“フルーツ・クーベルチュール” の名にふさわしい製品と言えます。

元々、フルーツの水分とカカオバターの油脂分は“水と油” という関係上、相性が悪く、フルーツを用いたレシピには限界がありました。しかし、この「インスピレーション」を使用することで、フルーツ感を損なうことなく、型取り、コーティング、ガナッシュ、氷菓類などのレシピが実現可能となります。

昨年、先行して発売されたフランスでは、既にピエール・エルメ氏、セバスチャン・ブイエ氏、フレデリック・カッセル氏といった世界に名を連ねるグランシェフも愛用。登場から間もない新製品ですが、今後のシリーズ展開に期待が寄せられています。
オキーフ(O’KEEF)
1作品目は「オキーフ(O’KEEF)」。この作品は、新製品のインスピレーション・フレーズの鮮やかな赤色を見た時に、20世紀に活躍したアメリカの女性画家“ジョージア・オキーフ” の絵画が頭に浮かんだということで、彼女の作品からインスピレーションを受けて考案されました。

デモンストレーションの冒頭でボウ氏は、「皆さん、お手持ちのスマートフォンで“ジョージア・オキーフ” と検索して下さい。」と受講者に語りかけます。今回の講習会では、ボウ氏がどのようなインスピレーションを受けて作品に反映しているのかを受講者全員で共有する為、随所でスマートフォンを使いながらデモンストレーションを進めていきます。

作品構成は、アングレーズをベースにしたオパリス(ヴァローナ)のバヴァロワの中に、ビスキュイとインスピレーション・フレーズのクレムーを交互に4層重ねたパーツが配置されています。

本作品に使用しているビスキュイは、マドレーヌ生地にメレンゲを加えたようなレシピで作られており、油脂にはバターではなくアーモンドオイルを使用。アーモンドオイルは常温でもリキッド状の為、冷たい状態でも生地が締まりにくく、しなやかで柔軟な質感が特長です。

ビスキュイに重ねているインスピレーション・フレーズのクレムーは、インスピレーション・フレーズの味わいを前面に出す為、卵と乳を使わずにゼラチン、ペクチン、寒天をバランス良く配合してクレムーのテクスチャーを実現しています。ゲル化剤を溶解する際にはハイビスカスの乾燥花を少量加えて風味付け。“フレーズ+ハイビスカス” という素材の組み合わせは、ハイビスカスがフレーズの香りを高める効果があるということで、ボウ氏お勧めのコンビネーションです。

仕上げのデコレーションには、アプソリュ・クリスタル(ヴァローナ)と、インスピレーション・フレーズにカカオバターを混ぜ合わせたアパレイユで、2層のピストレ掛けを施します。先にアプソリュ・クリスタル、次にインスピレーション・フレーズの順にピストレ掛けを行うと上品で高級感のある“ベルベット” のような質感になり、順番を逆にするとケーキの表面に細かな水滴が付着する“グラニテ” のような質感に仕上がります。
フュージョン・ショコラ(FUSION CHOCOLAT)
2作品目は「フュージョン・ショコラ(FUSION CHOCOLAT)」。この作品には、「キュヴェ・デュ・スルサー」シリーズの「キュヴェ・ブルーマウンテン」というチョコレートが使われています。「キュヴェ・デュ・スルサー」シリーズは、ヴァローナのカカオマスターが厳選した農園限定の稀少なカカオ豆で作られた、通常のラインナップとは一線を画す限定シリーズです。

キュヴェ・ブルーマウンテンは、ジャマイカの東端に位置するバス・ファウンテン自然保護地区内にあるモーランベイ農園で収穫されたカカオ豆のみを使用したカカオ分70%のブラックチョコレート。ウッディな香りに上品な苦味と優雅な酸味が感じられる洗練されたエレガントな味わいが特徴であり、日本限定で発売されている貴重なカカオです。

そんなキュヴェ・ブルーマウンテンは、本作品のメインパーツとなるムースに使用されています。レシピはキュヴェ・ブルーマウンテン、アングレーズ、生クリームのみなので、キュヴェ・ブルーマウンテンの味わいがシンプルに感じられるムースとなります。

ムースのセンターには、P125(ヴァローナ)のビスキュイ、ドゥルセ(ヴァローナ)のクレムー、ライムとパッションのジュレという3種類のパーツを重ねたものを配置。全てのパーツをモンタージュした後は、アプソリュ・ショコラ(ヴァローナ)のグラッサージュでコーティングを施し、最後に四角いプラックショコラでデコレーションを行います。フュージョン・ショコラ自体はシンプルな四角い形状の為、プラックショコラを大胆な角度で飾り付けることで、スタイリッシュな印象に仕上げています。
クリスト(CHRISTO)
3作品目は「クリスト(CHRISTO)」。このクリストは、ブルガリアの芸術家“クリスト” よりインスピレーションを受けた作品です。まずは1作品目の「オキーフ」と同様にスマートフォンで“クリスト” の作品を検索して、受講者全員でイメージを共有してからデモンストレーションを開始します。

“クリスト” は、様々な建造物や風景などを“梱包(ラッピング)” するという非常に奇抜なスタイルの作品を世に送り出した芸術家です。この“クリスト” の作品に対してボウ氏は、「彼がラッピングをするなら、私はそのラッピングを開けてみようと考えた。」と解説し、おもむろに手に取ったシリコンペーパーをグシャグシャとシワを付けていきます。このシワを付けたシリコンペーパーを “ラッピングを開けた包装紙” に見立てて、タルトレットに応用したのが本作品となります。

作品構成は、シワを付けたシリコンペーパーに乗せて焼成したサブレ生地の上に、キュヴェ・バリのガナッシュ、バナナのコンポート、グリュエ・ド・カカオ(ヴァローナ)のヌガティーヌがそれぞれ配置されています。

サブレ生地の上に配置されているキュヴェ・バリのガナッシュは、2作品目で紹介したキュヴェ・ブルーマウンテンと同じ「キュヴェ・デュ・スルサー」シリーズの「キュヴェ・バリ」を使用したガナッシュです。キュヴェ・バリは、インドネシア・バリ島にあるカカオ農家の共同組合「KSS」で収穫されたカカオ豆のみを使用したカカオ分68%のブラックチョコレート。その味わいは、フルーティーでわずかな酸味があり、力強いチョコレートらしい余韻が感じられます。このキュヴェ・バリもキュヴェ・ブルーマウンテンと同じく、現在はヴァローナのロイヤリティプログラム「サークルヴェー」のメンバーを対象にした製品です。2018年の11月より全国販売が開始されることになります。さらにはもともとアジア圏限定で販売していた製品ですが、好評を得て他の地域でも販売が始まります。
コーンス(KOONS)
4作品目は「コーンス(KOONS)」。こちらの作品は、現在も活躍しているアメリカの芸術家“ジェフ・コーンス(クーンズ)” よりインスピレーションを受けたということで、3作品目の「クリスト」に引き続き、スマートフォンで彼の作品を検索してからデモンストレーションを開始します。

“ジェフ・コーンス(クーンズ)” の名前を検索すると、“バルーン” を使ったアート作品がたくさん検索にヒットします。ボウ氏はこのバルーン作品を見た時に、以前、北海道を訪れた時にお土産店で見かけた“小さな風船に入ったプリン” が頭に浮かびます。そしてこの“小さな風船に入ったプリン” に和風のテイストを加えてタルトレットにアレンジしたものが本作品です。

コーンスの作品構成は、黒ごまのクルスティヤンを土台にして、上にはアーモンドのボールとフルーツのパールという2種類のパーツを重ねています。

土台となる黒ごまのクルスティヤンは、新製品のインスピレーション・アマンドにローストした黒ごまとエクラ・ドール(クレープ・ダンテル生地)を絡めて固めたもの。インスピレーション・アマンドのフレッシュなアーモンドの味わいと、和の素材である黒ごまの風味がマッチしたパーツです。

クルスティヤンの上に重ねているアーモンドのボールは、ペクチン、グラニュー糖、牛乳を混ぜ合わせたアパレイユでインスピレーション・アマンドを乳化したものを、ゴム容器に入れて球体状に冷やし固めて作ります。このパーツのイメージは“豆腐” 。インスピレーション・アマンドの薄いグレーの色合いとペクチンによる滑らかな食感が豆腐のテクスチャーを再現しています。

もう一つのパーツとなるフルーツのパールは、ハーブやフルーツで香り付けした寒天のアパレイユに、フルーツのダイスを浮かべて球体状に冷やし固めたもの。和食で言うところの“寒天寄せ” をボウ氏風にアレンジしたパーツとなります。
ノスタルジー!?(NOSTALGIE!?)
5作品目は「ノスタルジー!?(NOSTALGIE!?)」。本作品は3層の液状パーツをシェイクして食べるドリンクタイプのお菓子です。3層のパーツは下から順に、インスピレーション・フレーズをザクロジュースで乳化したガナッシュ、インスピレーション・アマンドを牛乳で乳化させたジュレ、そして一番トップがインスピレーション・フレーズとザクロジュースのエスプーマとなります。

どのパーツも非常にシンプルなレシピで作られている為、簡単なパーツの解説を行った後、すぐに試食の時間となりますが、なんと受講者の手元には上記した3層のパーツが入れられた“哺乳瓶” が配布されます。試食を手にした受講者に向けてボウ氏は「懐かしさを感じて頂けましたか?」と笑顔で語りかけます。

作品名の「NOSTALGIE」は、フランス語で“懐かしさ” を意味する言葉ですが、この試食の演出を受けてなるほどと納得。お菓子自体はシンプルであっても、容器や提供方法などを工夫すれば驚きや喜びを演出できるということを示した意欲的な作品です。
ニュアージュ(NUAGE)
6作品目は「ニュアージュ(NUAGE)」。本作品についてボウ氏は「私が日本で好きな“生チョコ” と“餅” を組み合わせた。」と冒頭で解説します。その言葉通り、“生チョコ” のとろりとした滑らかさと、“餅” の粘りのあるモチモチ感を合わせたような面白いテクスチャーのチョコレート菓子です。

本作品の作り方は、水に米デンプンと粉ゼラチンを混ぜて加熱したアパレイユで、インスピレーション・フレーズを乳化して冷やし固めるだけです。非常に簡単な作り方ですが、米デンプンを配合することで通常の生チョコとは異なる独特な食感を実現しています。

一般的にはチョコレートの種類やフレーバーによってバリエーションを増やすことが多い生チョコですが、本作品のように“食感の違い” というアプローチも面白い試みと言えるでしょう。
アフタヌーン・スイーツ(4.00PM)
最後の7作品目は「アフタヌーン・スイーツ(4.00PM)」。日本でおやつの時間といえば“午後3時” を思い浮かべますが、フランスでのおやつの時間は“午後4時” 。ということで本作品は“3時のおやつ” ならぬ“4時のおやつ” を意識した子供向けのおやつをテーマにしています。

アフタヌーン・スイーツ(4.00PM)のパーツは2種類。一つ目のパーツは絵の具のパレットの形に焼き上げたサブレ生地。そしてもう一つは絵の具のチューブ容器に入れたインスピレーション・パッションのクレムーです。この2種類のパーツを使ってサブレ生地にチューブに入ったクレムーを塗って食べるという仕掛けになります。サクサクの食感のサブレと滑らかなクレムーを存分に味わえることができます。

クレムーに使用しているインスピレーション・パッションは、果実由来の鮮やかな黄色をしている為、色素を添加しなくても素材にしっかりした色を出すことが可能です。同じシリーズのインスピレーション・フレーズも鮮やかな赤色をしており、フルーツの力強い味わいと共に、鮮やかな色合いもインスピレーションシリーズの魅力です。
ヴァローナ主催 フレデリック・ボウ(Frédéric BAU)特別講習会
以上でフレデリック・ボウ氏による講習会は終了となりました。

日常を含めた様々な場面からインスピレーションを受けてお菓子作りを行うボウ氏は、講習会の中で自身のクリエイションの原点には二つの要素があると語ります。その要素というのが“味” と“感動” です。ただ甘いものを食べたいだけなら、現代はコンビニエンスストアに行けば十分でしょう。しかし、そんな時代だからこそ、パティスリーでは“美味しいものを作り、感動を与える” という体験を提供する必要があるのです。その為にも、メディアやインターネットに取り上げられているクリエイションを模倣するのではなく、自分だけのオリジナルスタイルを築いてほしい、というボウ氏の願いがこの講習会には込められています。

講習会の終わりにボウ氏は、「エルメ氏、ブイエ氏、ミシャラク氏のような“奇才” が日本のパティスリーから誕生する事を期待している。」というメッセージを受講者に送ります。世界の舞台で活躍する日本人パティシエが年々増えている中、ボウ氏が期待するような“日本発の奇才パティシエ” が現れる日はそう遠くないのかもしれません。
Frédéric BAU(フレデリック・ボウ)
Frédéric BAU(フレデリック・ボウ)
1979年にパティスリー界への扉を開き、1986年パリ・フォションへ。ピエール・エルメにデコレーション部門を任される。1988年にテクニカルサポート・サービスの設立の為、ヴァローナに招かれ、「エコール・デュ・グラン・ショコラ」を創立。以降、20年間に渡り、ディレクターとしてヴァローナ文化の創造、レシピ開発に貢献。「Au Cœur des Saveurs(1997)」、「Caprices de Chocolat(1998)」、「Fusion Chocolat(2006)」を出版。2007年には新しい試みとして、ショコラへの科学的アプローチをテーマにして研修プログラム「テクノ・タクティル」を新設。現在は、ヴァローナ・クリエイティブ・ディレクターとして活躍。2018年、「ENVIES CHOCOLAT −崇高なショコラを求めて−」を刊行。
ヴァローナ
ヴァローナ(VALRHONA)社について
1922年フランス、ローヌ地方の菓子職人が創業。 カカオの品種や産地別に分類した製品をいちはやく展開した世界トップクラスのチョコレートメーカー。 超一流洋菓子店、レストラン、ホテルご用達の製菓材料であり、個性的な商品構成は、 その商品名が時にケーキやドリンクの名前にも付けられるほどの存在感です。 2007年には、フランスに次いで世界で2校目になるショコラの専門技術学校を、東京に設立。 さまざまな研修プログラムが用意されている。

ヴァローナ ジャポン
http://www.valrhona.co.jp/
ヴァローナ オンライン・ブティック
http://boutique.valrhona.co.jp
エコール・ヴァローナ 東京
http://www.valrhona.co.jp/ecole/
 
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