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ローラン・ル・ダニエル(Laurent Le Daniel)氏による菓子技術講習会
2018年5月31日、洋菓子を中心とした高級製菓原材料を取り扱うサンエイト貿易が主催する「ローラン・ル・ダニエル氏による菓子技術講習会」が開催されました。

この日の講師であるローラン氏は、フランス国家最優秀職人章(M.O.F.)の称号を持つブルターニュ地方出身のパティシエ。製菓コンクールにおける数々の受賞歴や、世界最高峰の製菓職人組織「ルレ・デセール」への入会など、製菓のプロフェッショナルからも一目置かれる存在として知られています。現在はフランス国内で「パティスリー・ル・ダニエル」を始めとする5店舗を経営し、パティシエとしての技術と共に、経営者としても才能を発揮しています。

講習会のテーマは、「伝統的ルセットに基づいた現代のお菓子」。このテーマについてローラン氏は、「メディアやインターネットの普及により、美しいビジュアルのお菓子をたくさん見かけるが、それが本当に美味しいのか疑問に感じる。そんな時代だからこそ、伝統的なテクニックを振り返り、しっかりとした技術を用いて高いクオリティのお菓子を作ることが職人としての使命である。」と冒頭のあいさつで解説します。その言葉通り、デモンストレーションでは伝統的でベーシックな技術を現代的なパティスリーに応用した5作品を披露。伝統的ルセットを現代の技術の礎として大切に伝承しようとするローラン氏の製菓に対する哲学が伺える講習会となりました。

開 催 日 2018年5月31日(木)
講 師 ローラン・ル・ダニエル(Laurent Le Daniel)氏
主 催 サンエイト貿易株式会社
パヴロヴァ・ココ・エ・フランボワーズ(PAVLOVA COCO ET FRAMBOISE)
1作品目は、「パヴロヴァ・ココ・エ・フランボワーズ(PAVLOVA COCO ET FRAMBOISE)」。パヴロヴァはフランス発祥のお菓子ではありませんが、フランスのパティスリーでは伝統的にメレンゲ菓子が作られていることから、近年フランスで人気のパヴロヴァを今回のデモンストレーションに取り入れました。

パヴロヴァのメインとなるメレンゲ生地は、砂糖の使用量を減らす目的として少量のコーンスターチを配合し、食感の良さを保ちながらも甘さを抑えた生地に仕上げています。このメレンゲ生地を、半球のシリコン型の裏面を利用してお椀型に焼成し、中にココナッツのクリームを詰めたものが本作品の下半分となります。

メレンゲ生地の上には、イチゴとラズベリーのコンポートと、メレンゲの中にも詰めたココナッツのクリームを順に重ねています。イチゴとラズベリーのコンポートは、ペクチンの代わりにジャガイモ澱粉とゼラチンでとろみを付けているので、ジャガイモ澱粉特有のポテッとした質感が特徴的なコンポートです。

メレンゲ生地の上に重ねた2種類のパーツを覆うようにして螺旋状に絞られているピンク色のクリームは、ラズベリーのシャンティ。ラズベリーピューレをベースに、グラニュー糖、ゼラチン、生クリーム(リキッド)、マスカルポーネを混ぜ合わせたアパレイユを一晩休ませてからモンテして使用しています。

ローラン氏は、このパヴロヴァを考案するにあたり、伝統的なメレンゲ菓子に対する「甘過ぎる」というイメージを払拭したかったと語ります。その為、先述したようにメレンゲに使用する砂糖の量を減らして甘さを抑えていますが、それでも他のパーツに比べるとメレンゲは甘さが強くなってしまいます。そこでローラン氏が重視したのが「全体的な味のバランス」です。メレンゲ以外のパーツの甘さや風味などを巧みにコントロールすることで、甘さが際立つことなくバランスの良い味わいのメレンゲ菓子を実現しています。
パヴロヴァのメレンゲ生地は、半球のシリコン型の裏面を利用してお椀型に焼成。
焼き上げたメレンゲ生地は吸湿防止の為、ホワイトチョコレートで表面をコーティング。
コーティングを施したメレンゲ生地のくぼみの中には、ココナッツのクリームを流し入れます。
メレンゲ生地の上には、イチゴとラズベリーのコンポートとココナッツのクリームを配置。
先述した2種類のパーツを覆うようにしてラズベリーのシャンティを螺旋状に絞ります。
最後にトッピングとしてラズベリークリスピーとデコールショコラを飾り付けて完成。
メレンゲ菓子に対する「甘過ぎる」というイメージを払拭する事をテーマに考案されたパヴロヴァ。
ティラミ・シュー(TIRAMI CHOUX)
2作品目は、「ティラミ・シュー(TIRAMI CHOUX)」。この作品は、「ティラミス」と「シュー」という、日本でも大変人気のある2種類のお菓子をタルトレットにまとめています。

ティラミ・シューの土台となるのは、パート・シュクレで作ったタルトレット。タルトリングにフォンサージュして焼成後、生地の内側に細かく砕いたコーヒー豆を混ぜ合わせたプラリネ・フリュイテ・クラッカン(ヴァローナ)を塗り付けてから、コーヒーシロップをたっぷり浸み込ませたビスキュイを中に詰めています。

タルトレットの上に置かれている白い球体状のパーツは、本講習会の主催であるサンエイト貿易が2017年より取扱いを開始したフランスのチョコレートメーカー「CEMOI(セモア)社」のサクセッション・ホワイト31%を使用したムース・ショコラブラン。ムースの中には、センターとしてコーヒー風味のキャラメル、底生地としてタルトレットの中にも詰めているコーヒーシロップを浸み込ませたビスキュイがそれぞれ配置されています。

一番トップとなるシューは、ベーシックな製法で生地を仕込み、上面にクランブルを乗せてから焼成しています。シューの中には、オレンジペースト(マロンロワイヤル)を配合してオレンジ風味に仕上げたクレーム・ムースリーヌが詰められています。
土台となるタルトレットの内側には、プラリネ・フリュイテ・クラッカンを塗り付けます。
プラリネを塗ったタルトレットの中には、コーヒーシロップを浸み込ませたビスキュイを詰めています。
タルトレットの上に重ねているのは、CEMOI社のチョコレートを使用したムース・ショコラブラン。
トップにはオレンジ風味のクレーム・ムースリーヌを詰めたシューを配置。
日本でも人気のある「ティラミス」と「シュー」を組み合わせたタルトレット。
ババ・ショコ(BABA CHOCO)
3作品目は、ババ生地とチョコレートを組み合わせたプティガトー、その名も「ババ・ショコ(BABA CHOCO)」。ビジュアルだけ見てもババ生地を使った作品には見えませんが、ケーキのセンターに直径4cm程度の小振りなババ生地が配置されています。

本作品の土台部分は、ダイスカットしたフィナンシェ(ココア風味)、卵白、バター、カソナード、ヘーゼルナッツを混ぜ合わせて焼成したクロカンです。このクロカンについてローラン氏は、ビスキュイなどの断ち落とした生地を再利用する目的で考案したレシピであると解説。その為、今回のデモンストレーションでは、クロカン用にフィナンシェを別途焼き上げましたが、仕込みの際に余った生地を代用することで、食品ロスの低減に役立つパーツとなります。

クロカンの上に配置されている円錐状のパーツは、ババ生地、クレムー・ショコラ、シャンティ・ショコラの3種類で構成されています。本作品のババ生地は、手間と時間の掛かる伝統的な製法を改良して作業工程を短縮したローラン氏オリジナルのレシピで仕込みます。焼成まで行ったババ生地は、程良い状態までシロップで煮込んでから、クレムー・ショコラで周りをコーティングするようにして、半球型の中に冷やし固めます。冷やし固めたババ生地とクレムー・ショコラの上部には、シャンティ・ショコラを絞り出し、再度冷凍。仕上げとして、再びシャンティ・ショコラで全体が綺麗な円錐形になるようコーティングを行い、最後にピストレ掛けを施しています。

ローラン氏は本作品について、「アンチ・シリコン」をテーマにしていると解説します。このテーマには、近年、様々なデザインのシリコン型の登場により、誰でも簡単に見栄えの良いケーキを作れるようになりましたが、型に頼らずとも美しくオリジナリティのあるケーキを作れてこそ菓子職人であるという、ローラン氏の熱い想いが込められています。もちろんローラン氏も、自身の店ではたくさんのシリコン型を使用していますが、それにより職人としての技術が失われてしまわないように、あえてこのようなテーマの作品を手掛けています。
ババ生地の仕込み風景。経験を頼りに生地の状態を確認しながら固さを調整していきます。
仕込んだババ生地は、焼成後に上面の固い部分を切り落としてからシロップで煮込みます。
シロップで煮込んだババ生地は、半球型を使用してクレムー・ショコラで周りをコーティング。
冷やし固めたババ生地とクレムー・ショコラの上部には、シャンティ・ショコラを絞ります。
再度冷やし固めてから、再びシャンティ・ショコラで全体が綺麗な円錐形になるようコーティング。
コーティング後、CEMOI社のチョコレートにカカオバターを混ぜたアパレイユでピストレ掛け。
最後に土台となるクロカンの上に重ねてババ・ショコの完成。
テーマは「アンチ・シリコン」。シリコン型を使用せずともオリジナリティのあるデザイン。
TROMPE L´œIL
4作品目は、「トロンプルイユ(TROMPE L´œIL)」。作品名の「トロンプルイユ」とはフランス語で「目を騙す、だまし絵」という意味の言葉で、ケーキの甘い味わいをハンバーガーにそっくりなビジュアルで表現したプティガトーです。

トロンプルイユの土台部分は、メレンゲにアーモンドパウダー、グラニュー糖、少量の小麦粉を混ぜ合わせて焼成したビスキュイ・マカロン。このビスキュイは、ダックワーズを彷彿させる歯切れの良い食感が特長で、やや厚みを持たせた円形の生地に焼き上げて、バーガーバンズの下部に見立てています。

ビスキュイの上に配置しているのは、ハンバーガーのパテに見立てたムース・ショコラ。このムース・ショコラは、サクセッション・ミルク38%(CEMOI)と牛乳を乳化したものをベースに、ヘーゼルナッツペースト(BABBI)とモンテした生クリームを混ぜ合わせて作ります。円形に冷やし固めた後は、アーモンド・ダイスを加えたチョコレートで側面をコーティング。アーモンド・ダイスのゴツゴツした質感とチョコレートの色合いが、ハンバーガーのパテを見事に再現しています。

ムース・ショコラの上にはハンバーガーの具材として、チーズに見立てたマンゴーのジュレ、トマトに見立てたイチゴのジュレ、レタスに見立てたピスタチオのクレーム・ムースリーヌの3種類のパーツをトッピング。最後に仕上げとして、表面にゴマを散らしたマカロン・デコールを、バーガーバンズの上部として重ねて完成です。

完成したトロンプルイユは、パーツの一部にビスキュイ・マカロンを使用するなど、クラシックな雰囲気を感じさせながらも、伝統菓子とは異なるユニークなビジュアルに仕上げています。伝統的なルセットを用いて新しいアプローチを試みようとするローラン氏のチャレンジ精神が感じられる意欲的な作品となりました。
トロンプルイユの土台となるビスキュイ・マカロン。バーガーバンズの下部に見立てています。
ハンバーガーのパテとなるムース・ショコラは、CEMOI社のサクセッション・ミルク38%がベース。
チーズに見立てたマンゴーのジュレ。艶やかな質感が本物のスライスチーズにそっくり。
上部のバーガーバンズとなるマカロン・デコール。バーガーバンズらしく表面にはゴマを散らしています。
トロンプルイユのモンタージュ風景。作業が進むに連れて徐々にハンバーガーの形に。
フランス語で「目を騙す、だまし絵」という意味を持つトロンプルイユ。ハンバーガーのヴィジュアルに仕上げたケーキ。
ガトー・ブルトン・オ・マロン(GATEAU BRETON AUX MARRONS)
5作品目は、フランス・ブルターニュ地方の伝統菓子であるガトー・ブルトンにマロンを組み合わせた「ガトー・ブルトン・オ・マロン(GATEAU BRETON AUX MARRONS)」。

ガトー・ブルトンの生地は、バターと粉類をロボクープでサブラージュしたものに卵を加えて仕込みます。仕込んだ生地は一晩休ませてから、5mm厚の長方形に伸して半分にカット。カットした生地で後述するガルニチュールをサンドします。

サンドするガルニチュールは、マロンロワイヤル社のマロンコンフィ・エグテとパートドマロン・セミコンフィ(低糖度のマロンペースト、2018年秋頃発売予定)を、生クリーム(リキッド)で滑らかな状態にほぐしたもの。風味付けにはフランスで食前酒などに愛飲されるハーブ系リキュールのパスティスが少量配合されています。マロンとパスティスという組み合わせはあまり馴染みがありませんが、ローラン氏によるとマロンの風味がグッと高まるということなので、マロンの風味付けのバリエーションとしてラムやブランデーの代わりに試してみることをお勧めします。

ガルニチュールをサンドした生地は、上面にライン模様を付けてから冷やし固め、6cm×6cmの正方形にカット。カットした後は、形が崩れないように同じ形のシリコン型に生地を入れて、低温のオーブンでゆっくりと焼成を行います。焼き上がったガトー・ブルトンは、しっとり柔らかな食感が心地良く、伝統菓子らしい素朴な仕上がりです。
ガトー・ブルトンの生地は、ロボクープを使用して各材料を混ぜ合わせます。
仕込んだ生地は一晩休ませてから、5mm厚の長方形に伸して半分にカット。
カットした生地でマロンロワイヤル社のマロン製品を使用したガルニチュールをサンド。
ガルニチュールをサンドした後は、上面にライン模様を付けてから正方形にカット。
焼成の際は、形が崩れないように同じ形のシリコン型の中に入れて焼き上げます。
焼成後のガトー・ブルトン。しっとり柔らかな食感が心地良く、伝統菓子らしい素朴な仕上がり。
ローラン・ル・ダニエル(Laurent Le Daniel)氏
1967年、ブルターニュ地方ヴァンヌに生まれる。15歳の時にChristian Le Guennec氏の元でパティシエとしての修業を始める。1987年からホテル日航パリにてJean-Paul Hevin氏(M.O.F.)の元で研鑽を重ねた後、Maison Chevallotを始めとするフランス各地の名店で経験を積む。1994年からフランス国立高等製菓学校にて教授として4年間教鞭をとった後、1998年12月、ブルターニュ地方レンヌに自身のパティスリー「パティスリー・ル・ダニエル」をオープン。パティシエとして技術と経営者としての才覚を発揮し、2018年4月には5店舗目となる「プチ・カルティエ・グルマン」をオープンする。1997年3月、フランス国家最優秀職人章(M.O.F.)受賞。2004年10月、ルレ・デセール入会。
サンエイト貿易
フランス・ヴァローナ社の最高級チョコレートやスペイン・SOSA社の製品を始め、洋菓子を中心とした高級製菓原材料の専門商社。「本物の価値ある商品をお届けする」ことを企業理念に、ヨーロッパを中心とした先見性のある高級洋菓子原材料を輸入販売し、製菓・製パン・料理業界の発展に貢献。

サンエイト貿易ホームページ
http://www.sun-eight.com/

 
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