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ビゴの店・藤森二郎シェフとスイーツジャーナリスト・平岩理緒氏による「シュトーレン」についてのトークセッション
2017年10月4日、東京・渋谷にある日仏商事パティスリー・ラボにて、パティスガストロノミー協会が主催する「ビゴの店」藤森二郎シェフと「スイーツジャーナリスト」平岩理緒氏によるトークセッションが行われました。

この日のトークテーマは「シュトーレン」。トークセッションが開催された10月初旬の町の様子は、まだハロウィンムード一色といった感じですが、ここ数年で日本でもクリスマス菓子としてすっかり定着したシュトーレンについて、一足先に語り合って頂きました。
開催日 2017年10月4日(火)
主 催 パティス・ガストロノミー協会
会 場 日仏商事株式会社 パティスリー・ラボ
アルザス風シュトーレン誕生エピソード
トークテーマがシュトーレンということで、まずは藤森シェフよりビゴの店の人気クリスマス商品「アルザス風シュトーレン」の誕生エピソードについてお話して頂きました。

藤森シェフがシュトーレン作りに着手したのは約25年前。当時の日本ではまだシュトーレン自体があまり知られていませんでしたが、ヨーロッパの食文化に精通する藤森シェフは日本でもシュトーレンを作ってみようと試みます。しかし、ビゴの店の創業者であり、フランス伝統のパン作りを重んじるフィリップ・ビゴ氏から「シュトーレンはドイツのパン」という理由で反対されてしまいます。

このビゴ氏の反対を受けた藤森シェフは、それならということで、フランスでもドイツ文化の影響を受けるアルザス地方の二人の職人からシュトーレン作りのアイデアを貰い受けることにします。

一人目の職人は、クリスティーヌ・フェルベール氏。今日では「ジャムの妖精、コンフィチュールの妖精」として日本でも広く知られていますが、まだ有名になる前のフェルベール氏のもとを訪ねてシュトーレン作りを学びます。藤森シェフ曰く、フェルベール氏のシュトーレンは「”パティスリー”のシュトーレン」。フルーツケーキに近いニュアンスだと語ります。

二人目の職人は、MOFのジョセフ・ドルフェール氏。藤森シェフはアルザスの中心都市ストラスブール近郊にあったドルフェール氏の店を訪ねて、ここでもシュトーレン作りを学びます。ドルフェール氏の店で学んだシュトーレンは、フェルベール氏とは異なり「”ブーランジェリー”のシュトーレン」。イーストによる発酵を重視した製法で作られるそうです。

こうしてアルザス地方の二人の職人からシュトーレン作りを学んだ藤森シェフは、両氏による「”パティスリー”のシュトーレン」と「”ブーランジェリー”のシュトーレン」の良い点を組み合わせてオリジナルのシュトーレンを完成させます。それこそがビゴの店の人気クリスマス商品「アルザス風シュトーレン」です。

シュトーレン発祥のドイツではなく、アルザスから誕生したから「アルザス風」。遠いアルザスの地に足を運んでまでも自身のシュトーレンを作ろうという熱意のこもった藤森シェフ渾身の逸品がここに誕生となりました。
美味しいシュトーレンの3つのポイント
そんな藤森シェフのアルザス風シュトーレンはなぜ美味しいのか。「はっきりは教えられないんだけど…」と言いながらも、藤森シェフ自ら3つのポイントを挙げて解説して頂きました。

最初のポイントは「しっとり感」。元々シュトーレンは、クリスマスを迎えるまでの4週間(アドヴェント)に少しづつ切り分けて食べるお菓子なので、固い生地に仕上げて日持ちをさせる必要がありました。しかし藤森シェフは日本人の味覚に合うようにと、しっとりしたシュトーレンに改良。生地の気泡が開いている焼成直後に、熱々のすましバターに全体をしっかり潜らせることで、しっとりしたシュトーレンに仕上げています。

二つ目のポイントは「スパイス」。シナモン、カルダモン、アニスなど複数のスパイスを巧みに配合することで、バランスの良い香りを実現。「スパイスの強いシュトーレンは日本人にあまり好まれない」と指摘しながらも、スパイスの量を減らすのでは無くバランスを取ることで、程よく強すぎないスパイスの香りに仕上げています。

最後のポイントは「小麦粉」。「昔は薄力粉のみを使っているシュトーレンが多かった」と語る藤森シェフは、シュトーレンに薄力粉と中力粉をブレンドして使用しています。この小麦粉のブレンドにより、最初のポイントでも挙げたしっとり感がより良くなり、さらに歯切れの良さもプラスすることが出来るそうです。
藤森シェフと平岩氏によるトークセッション
藤森シェフによるアルザス風シュトーレンの話の後には、スイーツジャーナリストの平岩氏を交えてトークセッションがスタート。トークセッションでは、終始和やかな雰囲気の中、シュトーレンをテーマに両氏のトークが進められていきました。

中でも特に盛り上がったのが「シュトーレンのアレンジ」について。年々、ここ日本でもシュトーレンが一般に広く浸透すると共に、チョコレートシュトーレンや抹茶シュトーレンなど、様々なスタイルにアレンジされたシュトーレンを良く見かけるようになりました。この事についてどのように考えているのでしょうか。平岩氏は藤森シェフに切り込みます。

これに対して「実は昨シーズン、バレンタインに向けてチョコレートシュトーレンを作ったんだよね」と藤森シェフ。さらにホワイトデー向けに赤い実のシュトーレンまで作ったそうで、どちらも結果は「良く売れた」とにっこり。この事からも藤森シェフ自身は、シュトーレンのアレンジについて肯定的な考えの様子。ただし「常識から逸脱するような節操がないものはダメ」とも語ります。消費者は新しいものや珍しいものに強い関心を示しますが、何事も節度が大切。やり過ぎない程度のアレンジにしておかないと、シュトーレンとしての価値が無くなってしまいます。

また、シュトーレンをアレンジする背景には、「1年を通してシュトーレンを販売したい」という売り手側のニーズがあるとも藤森シェフは指摘します。ご存知の通り、シュトーレンはクリスマスと縁の深いお菓子なので、基本的にクリスマスシーズン限定で食べられます。しかし、日持ちが良く持ち運びやすいシュトーレンは、お土産やプレゼント用のお菓子としても最適。実際に藤森シェフは、クリスマス後も年末年始のお土産としてシュトーレンの購入を希望されるお客様が多数いることから、年間を通じた販売ついて可能性を感じていると語ります。

そんな藤森シェフが、是非チャレンジしたいと力強く語るのが、夏向けのシュトーレン、その名も「シュトーレン・エテ(Stollen été)」。まだ現時点では「柑橘類の香りを効かせて冷蔵庫で冷やして食べるのはどうかな?」と構想段階ということなので、2018年の夏シーズンにはビゴの店にシュトーレン・エテが登場するのか注目です。
藤森二郎シェフ (ビゴの店)
1956年、東京・目黒に生まれる。大学卒業後、横浜のパティスリーを経て、かねてから憧れであったフィリップ・ビゴ氏に弟子入りし、ブーランジェ(パン職人)に転身。ビゴ氏のエスプリを徹底的に学ぶ。1984年、銀座ビゴの店「ドゥース・フランス」のシェフ兼支配人となる。1989年、ビゴ氏よりのれん分けを認められ、独立。 同年に、潟rゴ東京を設立し、「ビゴの店」鷺沼店をオープン。以降、1999年に玉川田園調布(自由が丘)「エスプリ・ド・ビゴ」、2000年に港南台高島屋「トントン・ビゴ」、2003年に玉川高島屋SC「オ・プティ・フリアンディーズ」、2011年に鎌倉「モン・ペシェ・ミニョン」をオープンする。
平岩理緒氏 (スイーツジャーナリスト)
2001年、マーケティング会社に勤める傍ら、ケーキ好きの為の情報サイト「幸せのケーキ共和国」を開設。2002年、テレビ東京の「TVチャンピオン」デパ地下選手権で優勝。その後、フードコーディネーターなど食に関する様々な資格を取得する。2006年、フリーのスイーツジャーナリストとして独立。以降、雑誌、WEB、ラジオ、テレビなどのメディアを通じてスイーツを中心とした「食」の情報を発信すると共に、執筆やコンサルティングなどの活動も精力的に行う。2017年には、「厳選スイーツ手帖」と「厳選ショコラ手帖」の2冊の監修本を出版。
 
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