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Julien ALVAREZ(ジュリアン・アルヴァレス) 特別来日講習会
2017年3月29日、世界を代表するチョコレートブランド、ヴァローナ社のショコラ専門学校「エコール・ヴァローナ東京」にて、Julien ALVAREZ(ジュリアン・アルヴァレズ)氏による特別講習会が行われました。

ジュリアン氏は、パティスリー・ブボやラ・パティスリー・デ・レーヴなどの名店に勤めた後、2014年にペニンシュラ・パリのエグゼクティブシェフ・パティシエに就任し、2016年からはカフェ・プーシキン(パリ)のシェフ・パティシエとして活躍。製菓コンクールでも、2011年クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーのスペイン代表チームとして金メダル獲得を始め、ワールド・チョコレート・マスターズやシャルル・プルースト杯での入賞など、数々の受賞歴を誇る若き実力派パティシエです。

この日の講習会は、2007年の開校から2017年で10周年を迎えたエコール・ヴァローナ東京のオープニングを飾る講習会ということで、エコール・ヴァローナ東京のディレクター、ファブリス氏より「記念イヤーのオープニングに相応しい素晴らしいパティシエを迎えることができた」と喜びのコメントからスタートします。

デモンストレーションされた製菓は全部で5品。クリエイティブなデザインと素材の良さを巧みに取り入れた作品の数々に、ジュリアン氏のパティシエとしての世界観を堪能させて頂きました。
TARTELETTE ORÉLYS CAFÉ ORANGE(タルトレット・オレリス・カフェ・オランジュ)
講習会の1作品目は「TARTELETTE ORELYS CAFÉ ORANGE(タルトレット・オレリス・カフェ・オランジュ)」。こちらの作品は、2017年3月に新しく発売されたヴァローナの新製品「オレリス」をメイン素材に使用したタルトです。

オレリスは、世界初のブロンド・チョコレートとして誕生した「ドゥルセ」に次ぐ、第2のブロンド・チョコレート。昨今のナチュラル志向のニーズに応えて、モーリシャス産のマスコバド糖(黒糖)を原料に使用しており、甘草(レグリス)を彷彿させる豊かなアロマとブロンド・チョコレート特有の香ばしくクリーミーな味わいが特徴です。本作品では、オレリスにコーヒーとオレンジを組み合わせています。

作品の土台となる部分には、スペキュロス生地で作ったクランブルとエクラ・ドール(クレープ・ダンテル)に、溶かしたヴァローナのホワイトチョコレート「オパリス」とフルール・ド・セルを絡めたものを使用。通常のタルトのようなフォンサージュは行わず、セルクルに詰めてからドーム状のくぼみを付けて冷やし固めています。

ドーム状のくぼみの中には、オレリスのクレムーを流し入れます。こちらのクレムーは、アングレーズベースとオレリスを乳化させた後、卵白とグルコースで泡立てた「メレンゲ」を加えて軽い仕上がりに。このクレムーのオリジナルレシピは、ジュリアン氏がクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーに出場した際に、ムース・ショコラを軽い仕上がりにする為に考案したそうです。

クレムーのトップ中央には、ムース・ド・レの中に柑橘のジュレを入れた半球状のパーツを重ねます。ムース・ド・レは、コンデンスミルクや脱脂粉乳などを加えた牛乳ベースのミックスに、ふんわりと泡立てた生クリームを混ぜ合わせたムースで、冷たい状態でも軽い食感を楽しむことができます。柑橘のジュレは、マンダリン果汁と洋梨ピューレを寒天で一度固めたものに、オレンジ・コンフィやグランマルニエなどを加えてロボクープでペースト状に加工しています。

半球状のパーツの周りには、コーヒーの香りを抽出した生クリームでオレリスを乳化したガナッシュを滴状に絞り、さらにガナッシュの間にオレンジ・コンフィとカットしたオレンジ果肉を飾り付けて作品の完成となります。

作品を構成するパーツの随所にオレリスが使用されているタルトですが、オレリスの味わいが決して強くなり過ぎることはなく、他の素材と見事にマッチングしています。オレリス特有のアロマを始め、スペキュロスのスパイス感、ジュレの柑橘風味、ガナッシュのコーヒーの香りなど、噛みしめるほどに各パーツのハーモニーが楽しめる作品です。
TARTELETTE AZÉLIA(タルトレット・アゼリア)
2作品目は「TARTELETTE AZÉLIA(タルトレット・アゼリア)」。ヘーゼルナッツとミルクチョコレートを組み合わせたヴァローナの「アゼリア」をメインに、全てのパーツにヘーゼルナッツの風味を取り入れたタルトです。

タルトの土台は、皮付きヘーゼルナッツパウダーを使用したパート・シュクレ。ポマード状のバターをベースに砂糖、粉類、卵などを混ぜ合わせて生地を仕込み、底面と側面を別々に成形してから、エコール・ヴァローナ東京オリジナルの穴あき丸セルクル型にフォンサージュして焼成します。

焼成したタルトの中にはフィリングとして、アゼリアのガナッシュ、ヘーゼルナッツのビスキュイ、ヘーゼルナッツ風味のクルスティアンの順に3層のパーツを配置。タルトの中にすりきり一杯までパーツを入れた後は、タルトを上下逆さ(タルト底を上面)にしてから、さらにパーツを重ねて行きます。

タルトの上に重ねるパーツは、円盤状の形に仕上げたアゼリアのムース。アングレーズベースとアゼリアを乳化させた後に、30〜35℃程度に調温してから、泡立てた生クリームと混ぜ合わせます。型に流して冷やし固めた後は、ムースと同じくアゼリアを使用したグラッサージュでコーティングし、タルトの中央に。ムースの周りには、キャラメリゼしたヘーゼルナッツを並べ、最後にデコールショコラを飾り付けています。

このタルトレット・アゼリアは、アゼリアとヘーゼルナッツ以外に、特徴的な素材を使用していないシンプルな作品です。しかしながら、それぞれのパーツに味の強弱を付けることで、奥行きのある豊かな味わいを形成。さらに各パーツによる食感の違いも秀逸。世界的なトップパティシエの実力が堪能できる見事な仕上がりです。
TARTE DAMIER(タルト・ダミエ)
3作品目は「TARTE DAMIER(タルト・ダミエ)」。ダミエ模様に並べられた上面のパーツが非常に印象的で、見る者の想像力を刺激する独創的なデザインのタルトです。

タルトの土台となるのは、サブレ・ブルトンとクレーム・シトロンを重ねたもの。サブレ・ブルトンは、出来上がった生地を休ませることなく、そのまま伸して焼成することで、生地の浮きを良くして高さのある仕上がりに。クレーム・シトロンは、通常のレシピで使われるバターの代わりにオパリスを代用し、チョコレートの油脂分でクレーム・シトロン独特の滑らかな質感を実現しています。

この土台の上にダミエ状に並べられているのは、ビスキュイ・ジョコンドでクレーム・シトロンとマンゴー・コンフィをサンドしたものをキューブ状にカットしたパーツです。こちらで使用されているクレーム・シトロンは、土台部分で使用したクレーム・シトロンに約半量の泡立てた生クリームと柚子パウダーを加えて、軽さと風味に変化を付けています。マンゴー・コンフィは、マンゴーピューレに糖類とペクチンを加えて沸騰させた後に柚子果汁を加え、クレーム・シトロンと同様に柚子の風味をプラス。この「マンゴー+柚子」という組み合わせは、単体で食べるとややしつこい印象を受けるマンゴーのニュアンスを、柚子の風味がマスキングしてくれるということで、ジュリアン氏が好んで使用している素材のペアリングになるそうです。

ダミエ状に並べた上記のパーツの隙間には、オパリスのガナッシュを絞り入れます。こちらのガナッシュは、バニラビーンズとエッセンスを加えてバニラ風味に仕上げています。また、絞り出した後の保形成を高める為にゼラチンも配合しています。このガナッシュの上には、フランボワーズホールをくぼみ部分が上になるように飾り、くぼみの中にフランボワーズのコンフィを流し入れて完成。

キューブ状のパーツとフランボワーズの織り成す黄色と赤色の色彩が、華やかな印象を感じさせてくれるタルト・ダミエ。その色彩の通り、味わいも大変華やかでフルーティー。一口食べると、レモンのフレッシュ感、フランボワーズの甘酸っぱさ、マンゴーのトロピカルな甘みが口の中に広がり、最後に柚子の切れのある酸味が全体の味わいをキリッと引き締めます。既成概念にとらわれないジュリアン氏のクリエイティブな発想が輝く、新感覚のタルトに仕上がりました。
PÉPITE(ペピット)
講習会の後半となる4作品目は「PÉPITE(ペピット)」。この作品は、「マンジャリ+フランボワーズ」という王道な素材の組み合わせを、立体的な卵型にして、表面に凹凸のある隕石のような球体に仕上げています。

球体の中身は、マンジャリのムース、フランボワーズ・コンフィ、マンジャリのビスキュイという3つのパーツで構成されています。メインとなるのはマンジャリのムース。アングレーズベースで乳化したガナッシュに、泡立てた生クリームと1作品目のクレムーでも使用した卵白とグルコースのメレンゲを加えて口当たりの軽い仕上がりに。

ムースの中央には、円盤状の型で冷やし固めたフランボワーズ・コンフィを配置します。このコンフィについてジュリアン氏は、ムースをカットすると半熟卵のようにトロッと流れ出るようなイメージで使用しているとのこと。もう一つのパーツとなるマンジャリのビスキュイは、食べた際に食感が楽しめるように、やや目の詰まった状態に焼き上げ、焼成後は15mm程度のダイスにカット。中央に配置されたコンフィを挟むように上下3〜4粒程度、ムースの中に散らしています。

卵型でムースを冷やし固めた後は、小麦粉の代わりに片栗粉とコーンスターチを配合したグルテンフリーのクルスティアンをランダムに貼り付け、マンジャリとカカオバターを合わせたチョコレート・ミックスで全体をトランペ。さらに表面にマンジャリをピストレしてから、金色の色粉をまぶして独特の質感に仕上げています。

完成したペピットは、マンジャリとフランボワーズの華やかな酸味をストレートに楽しめる作品。全体的に甘さが抑えられ、酸味とカカオのビター感が見事にマッチした味わいです。定番の味の組み合わせを、一風変わったデザインで表現したユニークなプチガトーとなりました。
MINAUDIÈRE JAPON(ミノディエール・ジャポン)
講習会最後の作品は「MINAUDIÈRE JAPON(ミノディエール・ジャポン)」。この作品は、小さな女性用のクラッチバッグ「ミノディエール」の形に仕上げたアントルメで、現在ジュリアン氏がシェフ・パティシエを務めるカフェ・プーシキンのクリスマス商品として実際に販売したものを、日本風にアレンジしています。

本作品のメインとなるパーツは、バニラとトンカ豆にライムの香りを組み合わせたガナッシュ。この香りの組み合わせは、ジュリアン氏が休日に自宅で、妹のローラさんと一緒にお菓子作りをしていた際、偶然に思いついたアイデア。甘く芳醇なバニラとトンカ豆の香りに、ライムのフレッシュ感がプラスされています。

ガナッシュの中にはセンターとして、二つのパーツが入っています。一つ目のパーツは、ヘーゼルナッツ風味のクルスティアン。このクルスティアンは、4作品目のペピットで使用されているクルスティアンと同じように、小麦粉の代わりに片栗粉とコーンスターチを配合して、グルテンフリーに仕上げています。

二つ目のパーツは、赤いフルーツのコンフィを重ねたパン・ド・ジェーヌ。コンフィのフルーツには、ジュリアン氏が素材の組み合わせとして好むフランボワーズ、カシス、グリオットを使用しています。パン・ド・ジェーヌは、パート・ダマンドをベースにした基本的な製法で生地を仕込み、焼成後は上面にコンフィを塗り重ねます。

全てのパーツの準備が出来た所で、片面の角に丸みのある長方形の型を二つ用意し、それぞれの型の中に各パーツを配置して冷凍庫へ。冷やし固めたあとは、型を張り合わせてバッグの形にモンタージュし、追油したチョコレートで全体をトランペ。仕上げとして、プラスティック・チョコレートで作られたベルトと花びらを飾り付け、最後にリキュールにパールパウダーを混ぜ合わせた溶液でピストレ掛けをして完成です。

カフェ・プーシキンで販売した本作品のオリジナルのケーキは、全体のカラーリングを情熱的な「赤」に仕上げたそうですが、今回は日本のイメージに合わせて上品なイメージの「白」に変えています。
以上でジュリアン・アルヴァレズ氏による講習会は終了となりました。デモンストレーションの中では、小さなパーツの仕込みから全体のモンタージュに至るまで、丁寧に仕事をこなすジュリアン氏の姿が非常に印象的でした。ジュリアン氏が創り出す作品は、独創的なデザインながら、味わいは奥深く繊細なもので、特に香りによる卓越した表現力は本当に素晴らしいものでした。

そんな素晴らしい作品を創造するジュリアン氏ですが、作品を考案するにあたり、特別なものから影響を受けている訳ではなく、日常の生活の中からヒントを見つけて作品に取り入れていると語ります。普段の何気ない生活も、豊かな感受性を持っていれば、たくさんのアイデアが溢れているもの。お菓子づくりに対して常に真摯に向かい合うジュリアン氏らしい発言といえるでしょう。

今回行われた講習会の三日後には、33歳の誕生日を迎えるというジュリアン氏。年齢的にはまだ若い世代のパティシエですが、すでに世界的なトップパティシエとして頭角を現すジュリアン氏の今後の活躍に注目です。
Julien ALVAREZ(ジュリアン・アルヴァレス)
Julien ALVAREZ(ジュリアン・アルヴァレズ)氏
2006年、スペイン・バルセロナのパティスリー・ブボに入店。2007年、ワールド・チョコレート・マスターズで5位獲得。2008年より、ラ・パティスリー・デ・レーヴ(パリ)で商品開発を担当。同年、シャルル・プルースト杯で3位獲得、さらに芸術賞を受賞する。2009年より、エコール・ベルエ・コンセイユで講師を務める。2011年、クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーにスペインチームとして出場、金メダルを獲得。2014年、ペニンシュラ・パリのエグゼクティブシェフ・パティシエに抜擢され、2016年からは、カフェ・プーシキン(パリ)のシェフ・パティシエに就任。
ヴァローナ
ヴァローナ(VALRHONA)社について
1922年フランス、ローヌ地方の菓子職人が創業。 カカオの品種や産地別に分類した商品をいちはやく展開した世界トップクラスのチョコレートメーカー。 超一流洋菓子店、レストラン、ホテルご用達の製菓材料であり、個性的な商品構成は、 その商品名が時にケーキやドリンクの名前にも付けられるほどの存在感です。 2007年には、フランスに次いで世界で2校目になるショコラの専門技術学校を、東京に設立。 さまざまな研修プログラムが用意されている。

ヴァローナ・ジャポン
http://www.valrhona.co.jp/
ヴァローナ オンライン・ブティック
http://boutique.valrhona.co.jp
エコール・ヴァローナ 東京
http://www.valrhona.co.jp/ecole/
 
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