ピザ向けの人気小麦粉「サッコ・ロッソ」を製造するイタリアの老舗小麦粉メーカー「カプート社」の講習会が8月8日に開催されました。
今回の講習会は、カプート社の新商品「サッコ・ヴィオラ」の使い方をテーマに、イタリア菓子専門家・歴史研究家の藤田統三シェフと、2010年度の世界最優秀ピッツァ職人に輝き、現在はナポリピッツァ世界大使として活躍されている「ピッツェリア トラットリア チェザリ」の牧島昭成シェフという豪華なお二人を講師に迎えます。
メインとなる7品のデモンストレーションは藤田シェフが行い、最後に日頃よりカプート製品を愛用している牧島シェフが世界レベルのナポリピッツァを披露するという内容で講習会は進められていきました。
伝統的な発酵菓子「Baba」にサッコ・ヴィオラを使用したものがこちらの作品。普段、藤田シェフが仕込んでいるパータ・ババは二段階の発酵を行っているそうですが、この粉を使用したところ、一段階の発酵でも美味しく満足のいく仕上がりになったそうなので、作業スピードの改善を望めるといいます。
今回のババは「夏向きのババ」をイメージしたということで、シチリア産オレンジの皮を使用して作られたリキュール「アランチェッロ」風味のシロップにパータ・ババを浸します。付け合せにはライム風味のシロップでマリネした薄切りのパイナップルを配置して夏のイメージを演出。生クリームを添えた後には、仕上げとしてすりおろしたライムの皮とピンクペッパーを散らし、飴の飾りを乗せて完成です。 飴の飾りは市販されている「のど飴」を電子レンジで柔らかくしたものを瓶に巻きつけて作った即席のアメ細工。ポイントは電子レンジで加熱する時に焦がさないようにする事。本格的なアメ細工は高い技術が必要ですが、これならお手軽に出来ますので是非お試し下さいと藤田シェフは提案します。
イタリアではブドウの収穫時期に良く食べられるという、ブドウをたっぷり使った菓子パン「Schiacciata con l’uva」。名前に入っているSchiacciata(スケッチャータ)という言葉は、イタリア語で「押しつぶす」を意味しているそうで、その言葉通り、平らにした状態で仕上げていきます。
このパンのベースとなるは、砂糖入りのフォカッチャ生地。フォカッチャなので材料にはオリーブオイルが入りますが、生地の吸水が終わり、ある程度捏ね上がってからオイルを加えていくのが生地作りのポイントとなります。このオイルの使い方は生地に弾力を加えたい時に用いるそうで、フォカッチャのような生地には最適なオイルの使用方法と言えます。 仕込んだ生地は、発酵後に2つに分割。片方の生地を天板に敷き込み、たっぷりのブドウを配置した上にグラニュー糖をふりかけてから、同サイズに伸ばしたもう片方の生地でサンドします。さらにその上にも、半割にしたブドウを並べ、グラニュー糖とオリーブオイルをふりかけてから焼成。仕上げにはクランブルを散らします。 一見すると「ブドウのタルト」のような仕上がりですが、生地の食感・味わいはフォカッチャ。オリーブオイルの使い方にこだわって作られた生地は、しっかりと弾力が感じられました。
Pesche(桃)をイメージして作られたイタリア菓子「Pesche Dolce」。見た目は大変可愛らしいですが、生地にたっぷりのアルケルメスを浸み込ませることで桃のようなピンクの色合いを表現しているので、アルコールがしっかり感じられる大人向けのお菓子です。子供ではとても食べられません。
生地の作り方は簡単に説明すると「イーストを使用したシュガーバッター法」。ただしクッキーのように軽く仕上げる生地ではないので、小麦粉を加えてから十分に練り込みます。完成した生地は半球状に成形してから発酵、焼成。焼成後は生地の真ん中をくり抜いてからたっぷりのアルケルメスに浸し、最後にカスタードクリームをサンドして完成です。 完成したPesche Dolceの生地はしっかりと目のつまった昔ながらの菓子パンといった印象で、例えるなら「甘食」のような素朴な生地といったところ。きれいに仕上げる為には、焼き色が付かないように丁寧に焼成するのがポイントです。
ロール状の生地を並べた形状がバラに見えることからその名前がつけられた、北イタリアを代表する伝統的な菓子パン「Torta delle rose」。藤田シェフとこの菓子パンの出会いは、イタリアでの修業時代にヴェネト州ヴェローナにある菓子店のショーウィンドウで見かけたのが最初だったそうで、当時のエピソードを語りながら生地作りは進められていきます。
生地の作り方は、中種法で行い、本捏ねの際にはバターを多めに入れてリッチな生地に仕上げます。さらに生地にはすりおろしたレモンの皮もたくさん入れて爽やかな香りをプラス。完成した生地は、発酵後に平らに伸ばしバタークリームを広げてからロール状に。その後、均一な太さにカットしてから型に並べてさらに発酵、あられ糖を全体にまぶし焼成します。仕上げとしてエルダーフラワーシロップとサンブーカを混ぜ合わせたシロップを塗り完成です。 表面はあられ糖が溶けてカリッとした食感、中はふわふわしたリッチな食感。口に含むとレモンゼストの香りが広がります。藤田シェフおすすめの食べ方は「カプチーノに浸して食べる」とのこと。この食べ方は、イタリア修業時代のシェフが教えてくれたそうで、藤田シェフにとっては当時の思い出がたくさん詰まった特別なパンという印象を受けました。
テイクアウトを目的とした切り売り用のピザ「Pizza al taglio」。このPizza al taglioは、サッコ・ヴィオラのパッケージにフォカッチャと並んでイラストが描かれており、粉の特性を発揮するのに適した生地と言えます。
この生地にはオリーブオイルが入りますが、生地が少し合わさった状態(まだボロボロした状態)の時にオイルを少しづつ加えていき、生地の組織にオイルを分散させます。こうすることで焼き上がってからもオリーブオイルの香りが残り、歯切れも良くなると藤田シェフは解説します。これは前述した「Schiacciata con l’uva」とは異なるオイルの使用方法です。 完成した生地はオイルベースの「Bianco」とトマトソースベース「Rosso」の2種類に分けてトッピングを行います。このPizza al taglioは焼き立てを食べるピザではないので、冷めても美味しい具材を選ぶことが大切です。
カフェやイートインが出来る店にはおすすめという一品「Piadina」。生地はイーストを使用せずベーキングパウダーで膨らますので、発酵の手間が無く、手軽に作れます。更に今回は同じ生地を使用してフランス・アルザス地方の伝統料理「Tarte Flambee」も併せてデモンストレーションされました。
Piadinaの生地には油脂分としてラードが入ります。日本のラードはイタリアのラードに比べて風味がやさしいので、本場イタリアのPiadinaを目指すなら生ハムやパンチェッタの油脂分を使用するのが藤田シェフのおススメです。 完成した生地はPiadinaであれば丸く伸ばしてから具材を挟み、フライパンで焼き上げます。Tarte Flambeeは天板で薄く焼成してからお好みの具材を乗せます。伸ばした状態で冷凍することも可能ということなので、実用的な生地といえるでしょう。
イタリア語で「スリッパ」を意味する四角い大型のパン「Ciabatta」。藤田シェフはサッコ・ヴィオラのポテンシャルを引き出すことが出来たと納得の一品です。
材料は小麦粉・水・塩・イーストという大変シンプルなもの。材料はシンプルですが、小麦粉と水の配合比率がほぼ同じなので、水種のようなゆるい状態の生地となります。仕込んだ生地は発酵を行いますが、本来のCiabattaは12〜16時間くらい発酵に時間がかかる所、サッコ・ヴィオラを使用した際には半分程度の発酵時間で生地が仕上がったといいます。 見た目はハード系パンのようなイメージのですが、生地は柔らかく程よい弾力が感じられます。具材をサンドしても良いですし、そのまま食べても美味しい汎用性の高いパンです。
藤田シェフの7品目のデモンストレーションが終わったところで、牧島シェフの登場です。牧島シェフといえば2010年度の世界最優秀ピッツァ職人に輝いた「ピッツァの世界チャンピオン」。握りこぶし程度の大きさのピザ玉を一瞬にして円盤状に広げる華麗な手さばきは必見。名古屋にあります牧島シェフのお店で是非ご覧になって下さい。
ナポリピッツァは生地が命です。牧島シェフは食べ終わった後に小麦粉の余韻が残れば一流のナポリピッツァの証と説明します。もしナポリピッツァを食べに行く機会がある方は、小麦粉の余韻を意識してみて下さい。今までとは違ったピッツァの楽しみ方が出来るかもしれません。 カプート・サッコ・ヴィオラ
切り売り・計り売り用ピザや、フォカッチャ向けにカプート社が開発した小麦粉。水分の含みが良く生地に弾力を与え、仕上がりの軽い食感と香りの良さが特徴。短発酵(発酵時間が12時間以内)の料理や菓子に使用することで、粉の良さが発揮される商品です。
藤田統三シェフ
大阪の製菓専門学校を卒業後、フランス菓子の道に進み、22歳でシェフに。その後はイタリア料理を学び、99年に渡伊。料理、菓子を研鑽する。東京にステージを移し、2011年本格的なイタリア菓子を提供する店として認められ、イタリア菓子の第一人者となる。
牧島昭成シェフ
2010年5月ナポリピッツァ世界選手権ピッツァナポレターナSTG部門(大会メイン部門)で優勝し、2010年度の世界最優秀ピッツァ職人に。現在は日本ナポリピッツァ職人協会副会長、世界中にナポリピッツァを伝える伝道師「ナポリピッツァ世界大使」として活躍中。
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