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ピュラトスジャパン主催 ステファン・ルルー氏によるチョコレート技術講習会
1919年の創業以来、世界中のパティシエやショコラティエに様々な原材料や技術を提供しつづけるピュラトスジャパン社主催の講習会が、5月20日に東京都内のドーバー洋酒貿易講習会場で開催されました。
今回の講師は、2004年にパティシエ部門でMOFを授賞し、現在はピュラトスグループのチョコレートブランド「ベルコラーデ」でデモンストレーターを務めるステファン・ルルー氏。 通訳と解説は、日本のフランス菓子を代表する名店「ノリエット」のオーナーシェフ永井紀之氏が行います。
会場はステファン氏のデモンストレーションを一目見ようと全国から集まった製菓関係者で満席。そんな中、アントルメなど6作品と、ピエスモンテのデモンストレーションを披露して頂きました。
開 催 日 2014年5月20日(火)
講 師 ステファン・ルルー氏
(ベルコラーデ本社:デモンストレーター)
主 催 ピュラトスジャパン株式会社
協 賛 ・ 会 場 ドーバー洋酒貿易株式会社
アントルメ・カフェ・ノワゼット Entremet Cafe-Praline
アントルメ・カフェ・ノワゼット Entremet Cafe-Praline
最初の作品は、プラリネ・ノワゼットのムースに、コーヒーとキャラメルのクレームを組み合わせた「アントルメ・カフェ・プラリネ(Entremet Café-Praliné)」。

作品の構成は、ムース・プラリネをメインとして、センターにコーヒーとキャラメルのクレーム、クルスティアン・ノワゼット、ビスキュイ・ジョコンド・ノワゼットを配置。一番底は、小麦粉を使用せずに作られたノワゼット風味のダックワーズとなります。 仕上げには、コーヒー風味のグラッサージュで上掛けをして、コーヒービーンズとショコラを飾り付けて作品の完成です。

通常のムース・プラリネは、プラリネの特性上、仕上がりがどうしても重くなりがちなので、アントルメのメインとして使用するのはやや難しいイメージがありますが、ステファン氏のムース・プラリネは、卵黄と砂糖を使用しないことで軽い仕上がりを実現。アントルメのメインとしても、クドくならず、副素材のコーヒーやキャラメルとも見事に調和していました。

こちらの作品は、2013年に出版されたステファン氏の著書「プラリネ」にも掲載されている作品からのアレンジになりますので、ご興味のある方は一読してみることをお勧めします。
アントルメのセンターに配置するクレームは一人前20g程度になるようにしっかり計量していきます。
冷凍したアントルメは少し常温においてからコーティングするとグラッサージュの乗りが良くなるとのこと。
試食用のアントルメ・カフェ・プラリネ。軽い仕上がりのムース・プラリネが作品のメインとなります。
フルール・ド・ヴェトナム Fleur de Vietnam
フルール・ド・ヴェトナム Fleur de Vietnam
2作品目は、「ベトナムの花」という名前がつけられた「フルール・ド・ヴェトナム(Fleur de Vietnam)」。 作品名に「ベトナム」という言葉が入るように、本来はベトナムのチョコレートを使用した作品ですが、現状日本では手に入らないということなので、今回は使用するチョコレートをベルコラーデの「レ・コレクシオン・バヌアツ」で代用してデモンストレーションを行います。

このフルール・ド・ヴェトナムは、まずマンゴークリームをセンターにしたバヌアツのムースを半球状に仕込みます。次に、ココナッツ風味のクレーム・ダマンドを入れたパートシュクレのタルトを同じく半球状に焼成。そしてこの半球状の2パーツを組み合わせて完成となります。 今回の講習会の中でもひと際目を引くユニークな形をしたプティガトーです。

ココナッツとマンゴーというトロピカルな組み合わせを、ムース・バヌアツの豊かな風味がやさしくまとめた上品な味わい。しっかりと噛みごたえのあるパート・シュクレと、ダマンドの中に入ったココナッツファインが、食感のアクセントとして楽しめる作品です。
パートシュクレは逆さにした半球形のシリコン型の上に乗せて焼成することでお椀のような形に仕上がります。
マンゴークリームをセンターにしたバヌアツのムースは鮮やかな黄色のグラッサージュでコーティング。
半球状のパーツを組み合わせた後は中央を円形にくり抜いたプレートチョコレートを飾り付けます。
タルト・ポム・オランジェ・プラリネ Tarte Pommes Oranges Praline
タルト・ポム・オランジェ・プラリネ Tarte Pommes Oranges Praline
3作品目は、「タルト・ポム・オランジェ・プラリネ(Tarte Pommes Oranges Praliné)」。

この作品は6つの層から構成されるアントルメで、一番底からノワゼットのクランブル、オレンジとパッションのコンポート、ビスキュイ・ジョコンド・ノワゼット、プラリネのムース、再びビスキュイ・ジョコンド・ノワゼット、そして一番トップが紅玉のエチューヴとなります。

紅玉のエチューヴは、天板に並べたリンゴに刷毛でキャラメルを塗る工程を複数層繰り返してから、85〜90℃程度のオーブンで6時間以上焼成するというもの。 タタンとは一味違ったこの仕込み方法では、使用するリンゴ選びが一番重要なポイントだというステファン氏。水分量の少ないリンゴを選び、仕上がりが水っぽくならないように十分に気を付けて焼成を行います。

完成した作品は、低温でじっくり時間をかけて焼き上げることでトロトロになったリンゴが、プラリネのムースやビスキュイとバランス良く合わさり、口の中に広がります。味わいの余韻にはオレンジとパッションのさわやかな風味。使用された素材の良さがそれぞれ感じられる見事な仕上がりとなりました。
リンゴをカットするステファン氏。リンゴは色々な素材と組み合わせやすいので気に入っているとのこと。
紅玉のエチューヴはスライスリンゴとキャラメルを複数層重ねてから低温のオーブンで長時間焼成します。
側面のデコール・ショコラは色素で色付けをしたカカオバターを何色も重ねることで複雑なグラデーションを生み出します。
ケーク・ピスタッシュ・ショコラ・グリオット Cake Pistaches-Chocolate Griottes
ケーク・ピスタッシュ・ショコラ・グリオット Cake Pistaches-Chocolate Griottes
4作品目は、「ケーク・ピスタッシュ・ショコラ・グリオット(Cake Pistaches-Chocolate Griottes)」。

この作品は、グリオットのコンポートとジャンドゥーヤを、ケーク・ショコラとケーク・ピスタッシュの2色でサンドするというもの。 デコレーションには、ステファン氏らしい印象的な色使いのプレート・ショコラが飾り付けられています。

グリオットのコンポートは、ジャンドゥーヤの濃厚な味わいとのバランスを考えて甘みを抑えた仕上がりになっており、さわやかな酸味が作品全体を引き締めます。コンポートとジャンドゥーヤをサンドする2種類のケーキは、シンプルながら風味豊か。程よい食感が心地よいプチガトーです。
ケーク・ショコラとケーク・ピスタッシュは食感が残るようにしっかりとした生地に仕上げます。
ケーク・ショコラの上にジャンドゥーヤを円状に絞り中央にグリオットのコンポート。そしてケーク・ピスタッシュでフタをします。
ステファン氏らしいグラデーションのデコール・ショコラ。2色のチョコレートを交互に絞り薄く延ばします。
オンデュレーション・オ・プラリネ Ondulations au Praline
オンデュレーション・オ・プラリネ Ondulations au Praline
5作品目はこれまでの4作品とはガラッとかわり、ショコラのプティフール「オンデュレーション・オ・プラリネ(Ondulations au Praliné」」。 画像を見ると良くわかりますが、波状のショコラを2つ接着して、その隙間にプラリネ・ノワゼットを流し、トランペして仕上げた作品です。

波状のショコラは、ホームセンターで購入したというトタン屋根を型として使用。ホームセンターではさまざまな発見があるということで、ステファン氏も普段から意識をしながら足を運んでいるそうです。 また、この波状のショコラを2つ接着する形に、ステファン氏は大変可能性を感じているということで、サンドする素材の組み合わせを研究しているということでした。
ホームセンターで購入したというトタン屋根を型として使用。日常生活の中にも様々なアイデアが潜んでいます。
波状のショコラは盛り上がった部分をチョコレートで接着して素材を入れるスペースを作ります。
波状のショコラを組み合わせたものがこちら。中に入れる素材の組み合わせ次第で様々なタイプのプティフールになります。
バー・レザン・ジャンドゥーヤ Barres Raisin-Gianduja
バー・レザン・ジャンドゥーヤ Barres Raisin-Gianduja
6作品目も、5作品と同じくプティフールタイプの「バー・レザン・ジャンドゥーヤ(Barres Raisin-Gianduja)」。

カードルを使い、1cm程度の厚さに焼成したビスキュイ・ショコラの上に、ジャンドゥーヤを薄く広げ、バー状にカット。その上に、ラム酒で風味付けをしたレーズンを並べ、レーズンと一緒にトランペします。

トランペしたものは、完全に結晶化させた後に、柔らかく細かな刷毛で丁寧に磨き上げ、ショコラの表面を美しく輝かせます。 デモンストレーションでは、数個の表面を磨くだけなので簡単ですが、ショコラティエのように、数百個、数千個のショコラを磨くのは本当に大変だというステファン氏。しかし作品のクオリティを上げる為には重要な工程。ステファン氏の職人としてのこだわりが感じられる場面でした。
ビスキュイ・ショコラとジャンドゥーヤの上にはラム酒で風味付けしたレーズン。食した際に心地良いラムの香りが広がります。
トランペして結晶化させた後は、柔らかく細かな刷毛でショコラの表面を磨き上げます。味はもちろんですが見た目の妥協も許しません。
ピエスモンテ Piece Montee
ピエスモンテ Piece Montee
6作品のデモンストレーションが終わると、最後にピエスモンテのデモンストレーションが行われました。 普段のピエスは、植物を題材にした作品が多いというステファン氏ですが、今回は生物(イカと魚)を取り入れた作品となります。

ピエスの組み立てでは強度を大切にしているというステファン氏。作品を作る前に全体像をしっかりとイメージして、パーツを配置する場所は、接着をしやすいような形状にするなど工夫をこらしているそうです。

パーツを接着する時も、ただ接着するだけではありません。パーツと土台の間にできた隙間は、ひとつひとつ丁寧にチョコレートで埋めていきます。さらに隙間を埋めた接着部分は、カカオバターをピストレして作品に馴染ませます。これにより接着面の強度と作品の美しさが生まれるわけですが、この丁寧な作業には、通訳の永井シェフも「フランス人としては珍しいくらいの繊細さ」と驚いた様子。 WPTCのショコラ・ショーピース部門で2度にわたり個人優勝を果たした輝かしい実績の裏には、丁寧な作業を積み重ねるという、地道な努力がある事を忘れてはいけません。
土台とパーツを組み合わせた部分は隙間のないようにしっかりとチョコレートで接着していきます。
接着した部分はピストレで作品と馴染ませます。この丁寧な作業が作品全体のクオリティに繋がります。
ピエスモンテ Piece Montee
以上で、ステファン・ルルー氏によるチョコレート技術講習会は終了となりました。

今回の講習会で通訳を行っていた永井シェフは、ステファン氏のことを「大変繊細で職人らしい気質をもっており、フランス人としては稀にみるまじめな性格のパティシエ」との評価。 デモンストレーションの中でも、細かな部分まで丁寧に仕上げていく場面が何度もあり、受講者の方々も彼の繊細な仕事から、たくさん学ぶことがあったのではないでしょうか。

講習会の最後には、「次の講習会ではどのようなデモンストレーションが見たいのか教えてほしい」と受講者に向けてメッセージを送ったステファン氏。このメッセージからも、彼の仕事に対するまじめな姿勢を感じさせてくれました。
Stéphane Leroux氏 (ステファン・ルルー)
ベルコラーデ本社 デモンストレーター

1967年フランス生まれ。
MOF(2004年パティシエ部門)。
2002年、2004年と連続してワールド・ペストリー・チャンピオンシップ(WPTC)にベルギー代表として出場し、チョコレート・ショーピース部門で2度にわたり個人優勝を果たす。2009年に「素材としてのチョコレート」、2013年に「プラリネ」を出版し、世界中のプロフェッショナルより賞賛を得る。現在、ピュラトス本社(ベルコラーデ)に所属し、世界各国で技術指導などを行う。
 
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