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ステファン・ルルー チョコレート技術講習会
世界中のパティシエを魅了し続けているベルギーのチョコレートメーカー『ベルコラーデ』。昨年に引き続きそのベルコラーデ本社デモンストレーターである『ステファン・ルルー氏』をお迎えして、チョコレート技術講習会が開催されました。
ステファン氏はMOF(フランス最優秀職人)の称号を有すパティシエの一人であり、WPTC(ワールド・ペストリー・チャンピオンシップ)ではチョコレート・ショーピース部門で2度にわたり個人優勝を果たす程の実力の持ち主です。それ以外にも技術書などの出版も手掛けており、ご自身の技法をパティスリー界に惜しみなく提供されています。
今回の講習会では『エーグルドゥース』の寺井シェフの通訳のもと、ガトーとヴェリーヌの合わせて5品と、ピエスモンテの技法を披露して頂きました。
開催日 2013年5月21日(火)
講 師 ステファン・ルルー(ベルコラーデ本社:デモンストレーター)
主 催 ピュラトスジャパン株式会社
会 場 ドーバー洋酒貿易株式会社 講習会場
スルタナ・ショコラ・ラム・レザン 〜SULTANA CHOCOLAT RHUM-RAISINS〜
プラリネ風味のグラサージュが大変美しい『スルタナ・ショコラ・ラム・レザン』。ラムの芳醇な香りが漂うババロアと、濃厚でビターなムース・ショコラとの組み合わせはとても魅力的です。更にセンターにはサクサクとした食感とナッツが香ばしいクルスティヤン・ノワゼット。土台のクランブル・ノワゼットと、全体的にナッツ(もしくはプラリネ)をふんだんに使用しています。ショコラとラムレーズンというとポピュラーな組み合わせであり、且つ人気の高いアイテム。これをステファン氏はどう表現してくださるのか。受講者の方々も期待に胸を膨らませます。今回はアントルメとして仕込みからデコレーションまでをデモンストレーションして頂きました。
土台の塩気のきいたクランブルはシェフもとても好きなパーツとの事。濃厚なムースに対し、その塩気が全体を引き締めます。更に生地自体にヘーゼルナッツとアーモンド(皮付)のプードルを半々で使用する事で味に深みを与えます。そしてムースの仕込みでのパータボンブは、直火で加熱していく方法を披露して下さいました。温度を上げたシロップで仕込むタイプよりも作りやすく流動性があり、且つ美味しく仕込めるとの事。ドゥバイヨル時代の製法だそうで、パータボンブは仕込みの方法が複数あるだけに、こういった世界レベルのシェフが勧める製法は聞き逃せません。他にもムースに使用する生クリームの立て具合や逆さ仕込みでの注意点等、要所要所で大変分かりやすく明確に解説して下さいました。
アントルメ・ピスタッシュ・アナナ 〜ENTREMET PISTACHE-ANANAS〜
鮮やかなピスタチオグリーンのグラサージュが目を惹くアントルメ。今回ピスタチオに組み合わせたのはなんとパイナップル。センターにクレームとコンポートとして仕込んであります。ちょっと意外な組み合わせに受講者の方々も興味津々。香ばしいクロカン・ノワゼットとピスターシュの濃厚なムースに、パイナップルの爽やかな酸味が実に良く合います。
このピスタチオとパイナップルという組み合わせは、シェフが20年程前に勤めていたお店で使用していたそう。当時はピスタチオのバタークリームにパイナップルを合わせていたとの事で、今回はこれアントルメに活用したそうです。時代は流れても美味しい組み合わせはいつまでも色褪せませんね。逆に受講者の方々にとってはとても斬新なものであったのではないでしょうか。斯く言う私もその一人です。
さて、仕込みでは同じくグラサージュを使用していますが、ホワイトチョコレートにピスタチオペーストを使用し緑色に仕上げていきます。このまま使用するとかけた時にムースが下から透けて見えてしまうそう。そこでチタンを少量添加し着色する事でそれを防ぎ、更にパステル調に仕上げる事ができるとの事でした。またグラサージュをかける際も凍った状態のものをすぐ型から出してしまうと表面がツルツルになってしまう為、敢えて少し時間を置いてから、と説明して下さいました。これにより表面に霜がおりた様にザラつき、グラサージュがしっかりかかるので大変綺麗に仕上がるとの事です。そういったちょっとの差が仕上がりを大きく左右してしまうのですね。
ヴェリーヌ・フレーズ・フランボワーズ・エストラゴン 〜VERRINES FRAISES FRAMBOISES ESTRAGON〜
エストラゴンをアンフュゼ(香りを移す作業)させたホワイトチョコレートベースのクレームに、フレーズとフランボワーズのコンポートの酸味がとても良く合います。所々散りばめられたクランブルがアクセントとなって、更に全体に一体感を持たせます。
クレームでは卵黄を使用せず、とても軽いガナッシュのイメージで仕込んでいきます。そしてフランスでは『食通のハーブ』とも呼ばれているエストラゴン。主に料理に使用される事が多いですが、今回は相性の良いベリー類と合わせてヴェリーヌとして仕上げます。ミントなどのハーブはアンフュゼした際、引き上げておかないとえぐ味が出て液体自体の風味が変わってきてしまいます。逆にエストラゴンはずっと浸したままでも風味が変わらず、自分好みの状態まで置いておく事ができると説明して下さいました。こういった使い勝手の良さも魅力的ですね。素材的にもエストラゴンの爽やかさとベリーの酸味がこれからのシーズンにもピッタリ!ぜひ活用していきたい組み合わせです。
そしてデコレーションされているプラックチョコレートの作り方も合わせて解説して頂きました。ここではスポンジを使用して着色したカカオバターをフィルムの上に伸ばしていきます。その上からホワイトチョコレートを伸ばし、固まってから剥がせばとても美しいプレートが出来上がります。まるで自作の転写シートと言った所でしょうか。アイデア次第でデザインは無限に広がります。
タルトレット・シトロン・プラリネ 〜TARTELETTES CHITRON PRALINÉ〜
タルトレットの上には半球状のメレンゲという、とてもユニークな形状をしたお菓子。カットしてみると下からクルスティヤン・オ・プラリネ、ジョコンド生地、そしてシトロンのコンポートと続きます。トップの半球状のメレンゲの中にはクレーム・ド・シトロンが。ナッツとフィヤンティーヌの濃厚な香ばしさと、シトロンの爽やかな酸味の、一見相反した組み合わせがお互いを引き立て合います。
仕込みの説明では、タルトレットには必ず表面にカカオバターをピストレするとの事。こうする事で生地が湿気る事無く、常に良い状態のまま提供する事ができます。こういったひと手間がとても大切ですね。そしてトップのメレンゲは殺菌性を考え、スイスメレンゲで仕込んであります。卵白・砂糖・トリモリンを合わせ80度になるまで加熱していきます。その後ミキサーで立てていきますが、そこではスピードを敢えて弱くして立てていくそう。こうする事でとても軽く、質感が長持ちするメレンゲに仕上がる、と解説して頂きました。仕込む内容でメレンゲを使い分けるのではなく、求める質感によって切り替えるという発想はステファン氏ならでは。ちなみに、半球状のメレンゲはアイスディッシャーを使用しています。こういった身近な道具をいかに活用するか、そういった柔軟性のある発想もとても大切ですね。
マシュマロ・プラリネ・カシス・ヴァニーユ 〜MARSHMALLOW PRALINÉ CASSIS VANILLE〜
ミルクチョコレートでコーティングされた中には何が隠れているのでしょうか?期待を胸にひと口かじると、トップにはふんわり柔らかなマシュマロが。その下には酸味のあるカシスのパート・ド・フリュイとプラリネ・アマンドとチョコレートを合わせたものが続きます。土台にはシトロン風味がきいたクランブル。シトロンやカシスの酸味とナッツとミルクチョコレートの濃厚さ、マシュマロの柔らかな食感とクランブルの歯ごたえなど、シンプルな見た目とは裏腹に食べる者を楽しませてくれます。
コーティングにはミルクチョコレートを使用していますが、ここでカカオ分の高いチョコレートを使用すると固まる際に締まってきてしまい、中のマシュマロも詰まった食感になってしまうそう。全体の味のバランスはもちろんですが、こういった意味合いでもチョコレートの選択が重要になってきます。そしてこの細長い形状も大変食べやすく、見た目もスタイリッシュに決まりますね。シンプルですが実に奥行きのある構成で仕上がっています。
ピエスモンテ 〜Piecemontee〜
ステファン・ルルー氏と言えばピエスモンテは外せません。今回通訳をして下さった『エーグルドゥース』の寺井シェフも、フランス人の知人の中でピエスモンテの腕はステファン氏が一番抜きん出ている、とお話をされていました。今回はそんなステファン氏の技法を惜しみなく披露して頂きました。
まずはホワイトチョコレートを使用しての基本のテンパリングから。殆どの方がテンパリングは幾度となく行っている、当たり前の作業かと思いますが、ピエスモンテではそんな基本の作業もきっちりこなさないと完璧な作品を生み出せません。チョコレートを溶かす温度等、基本に戻って見つめ直す重要性を説明して下さいました。そして今回のメインでもある花をモンタージュして行きます。花びらを接着していく作業工程では、コールドスプレーを使用し続けていると結露が発生してしまい、仕上がりに影響を与えてしまいます。1枚接着したら必ず時間を空け、接着部分の温度が戻ってから次の取り付けを行う様、説明して下さいました。そして全体部分の大きなパーツは接着部分をしっかり温めモンタージュして行きます。
更にステファン氏はピエスを考える際、必ずデッサンからスタートするとの事。ステファン氏と言うと植物のピエスが真っ先に浮かびますが、フラワーアレンジメントや日本の生け花の本等を参考にもされているそうです。この様に文化を超えて知識を探求して行く姿に、世界のレベルの高さを伺えます。そしてデザインが決まった後はどのパーツをどの順でやっていくか、細かくイメージして行きます。こういった大型作品は緻密な計画が大変重要になってきますので、ここでしっかりとした骨格を構築しておかないと、後々何らかの形で影響が出てきてしまいます。この様にこれらの段階をしっかりと踏まえて初めて、世界で一つしかない美しいピエスモンテが誕生するのです。
Stéphane Leroux氏 (ステファン・ルルー)
1967年フランス生まれ。
「ピエール・マルコリーニ」「ドゥバイヨル」「コンラッドホテル」等、ベルギー国内の有名店での修業を経て、「ピュラトス」「IBC社」などで研究開発を担当。WPTCでは2002年・2004年と連続してベルギー代表として出場。チョコレート・ショーピース部門で2度にわたり個人優勝を果たす。 2004年にはMOF(フランス最優秀職人)の称号を得る。2008年には邦題「素材としてのチョコレート」を出版
 
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