TFOODS.COM 材料にこだわる人とプロの為の洋菓子材料通販サイト

Yann DUYTSCHE 特別来日講習会
全世界のトップパティシエから絶大な支持を得ているフランスのチョコレートメーカー・ヴァローナ社。
今回そのエコール・ヴァローナ東京にて、料理・製菓の世界で最新鋭の技術を発信し続けるスペインにて活躍されている『Yann DUYTSCHE(ヤン・ドゥイッチ)氏』を講師として迎え、新商品を使用した特別デモンストレーションが行われました。使用した商品はこの春より新たに発売されたホワイトチョコレート『オパリス』と、ヴァローナ社が独自に開発した、油脂分と固形分の比率を逆転させたチョコレート『P125』をそれぞれ使用して行って頂きました。
『オパリス』はミルクと砂糖を絶妙なバランスで配合しており、ミルキー感を損なわず他の素材を引き立てるのに大変適した仕上がりとなっています。ホワイトというと甘ったるい印象が先行してしまいますが、オパリスは正にその概念を覆す、画期的なチョコレートでもあります。そのマットな白さはキャンバスをイメージしたかの様に、使い手の自由な発想を思い通りに創造させてくれます。
そして、ヴァローナ社が独自に開発した、油脂分と固形分を逆転させた全く新しい発想のチョコレート『P125』。通常のカカオマスは油脂分が固形分よりも多いのが一般的ですが、このP125はその比率が逆転しているため、滑らかで且つ力強いカカオの味・香り・色味を表現する事が可能となります。これは正にショコラを超えたショコラ。Puissance(フランス語で、強さ、パワーの意)の名の如く、カカオのパワーを存分に感じる事ができます。
この様に、見た目も中身も対照的なチョコレートであるオパリスとP125という時代の最先端を行くショコラ。これらをヤン・ドゥイッチ氏の手により、素材とのすばらしい融合を経て完成されたお菓子を披露して頂きました。もちろん、ただルセットを披露して頂いた訳ではありません。そこに行きつくまでの過程も丁寧に説明して下さいました。
それではそのデモンストレーションの内容をご紹介させて頂きます。
オパリス・サルヴィア 〜OPALYS SALVIA〜
新登場の『オパリス』を冠したプティガトー。その名の通り真っ白なフォルムにオレンジとセージの葉がデコレーションされています。イタリア旅行の際に飲んだハーブティーから発想を得たそうで、素材にはセージ・レモン・蜂蜜が使用されています。土台のシュトルーゼルのサクッとした食感と、アカシアの蜂蜜のクレムー、セージをより一層引き立てるレモンとの組み合わせのムースがとても印象的です。このプティガトーではオパリスと温めた液体(牛乳・生クリーム)とを乳化させるシーンが何度か登場しましたが、ここが一番のポイントとの事。まず液体をチョコレートに全て加えそのまま待ちます。ここでは絶対に触らないで!と何度も念を押されていました。そしてチョコレートが温まった所でその液体の4/3を鍋に戻し、残りの液体でチョコレートを乳化させます。ホイッパーで乳化させたら残りの液体を少しずつ加えながら混ぜていき、最後にブレンダーをかけると完全に乳化した状態の、大変滑らかなガナッシュが出来上がるとの事でした。
こういった普段何気なく行っている乳化作業でも、改めて見直してみる必要性がある事を実感しました。お菓子は科学!とは良く言われていますが、本当に求めているものを自ら突き詰めるからこそ、新たな発見が見えてくる事をあらためて学ばせて頂きました。
タルト“カラ・サ・トゥナ”〜TARTE ”CALA・SA・TUNA”〜
『カラ・サ・トゥナ』とはスペインに実在する入江の名称で、実際の場所はそうそう人が立ち行かない所であるそう。岩のゴツゴツ感をイメージしたかの様な見た目ですが、一体中に何が隠されているのか?食べる者への想像力を掻き立たせます。
シェフはこの『人が行かない様な所・自らの足で探し出さないと見付からないもの』を素材に置き換え今回のタルトを構築したとの事でした。この様に、見た・聞いた・体験した物事を素材やルセットへと変換させるその発想の柔軟性に、流石世界を牽引するパティシエであると実感しました。
ルセットは、まず土台のシュクレ生地にはP125を使用し、見た目にも味にもカカオの力強い深みを与えています。同じくP125が使われているフランジパーヌ・ノワゼットの荒々しい山を、期待を胸に口に入れると、フルール・ド・ビエール(ヴォルフベルジェール)で香り付けされたアプリコットのコンポートが顔を覗かせます。カカオのしっかりした味わいの中に酸味のあるアプリコットの組み合わせは言うまでもありません。ゴツゴツしたダークブラウンの中から現れるオレンジの宝物に、思わず頬が緩みます。こういった『どんなものが隠されているのか?』といった期待感を与える事も大切な要素です。
ここでシェフから一つ組み合わせのアドバイスが。スパイスを加えたワインでコンポートした洋ナシや、キャラメリゼしたリンゴなどと合わせてもオススメとの事。作り手に広がりを持たせるルセットの構築も、受講されている方にとってはとても参考になっていたのではないでしょうか。
ドゥ・ブラン・ヴェテュ 〜DE BLANC VÉTU〜
真っ先に目に入るパイ生地の下には真っ白なヴェリーヌ。センターにはパイナップルとライムのコンポート、オパリスとライムのムース、そしてタピオカが。一見みただけではその真っ白なフォルムに何が隠されているのか想像がつきません。ですがシェフ曰く、食べ進めて行く内に見えてくる素材・味を楽しみながら、とのコンセプトで考えられたそうです。
そしてこのヴェリーヌのトップにデコレーションされている、真っ白なビスキュイにぜひ注目して下さい。ヨーグルトフレーバーのふわっとした不思議な食感がポイントで、オパリスのミルク感を更に引き立たせます。そして驚くのはその仕込み方。生地をサイフォンに入れエスプーマ(泡)として器に絞り出し、それを何と電子レンジで加熱して仕上げる製法をとっています。それをそのまま冷凍すれば海綿の様な仕上がりになり、とても不思議な食感のビスキュイとなるのです。
エスプーマを電子レンジで加熱するという発想の転換には、受講者の方々も驚きを隠せませんでした。『当たり前』を覆す。これからのパティスリーに無くてはならない発想の転換ですね。
ナイカ 〜NAICA〜
『ナイカ』とはメキシコに実在する鉱山で地下にはクリスタルの洞窟があり、そのクリスタルをイメージしたのがこのプティガトーです。トップにデコレーションされた極薄の飴の美しさは、正にメキシコの荒々しい鉱山の地中深くに眠るクリスタルを思わせます。
その下に続く薄くはらりとしたフィユタージュには焦がしバターが使われており、味の奥深さを演出しています。間にはオパリスを使用したクレームと、チェリーのコンポートがサンドされていますが、このコンポートにはスペインでの食習慣が活かされています。それはチェリーにアニスを付けて食べるというもので、今回はその組み合わせをオパリスに合わせたとの事。この様に常日頃からアンテナを立て、それらを上手くルセットとして構築していく発想の柔軟性には、毎回驚かされるばかりです。
パリッ・サクッとした食感と、オパリスの滑らかなクレーム。そしてそこから更に引き立てられるチェリーとアニス。ナイカの積み重ねられた歴史とスペインの伝統とが上手く融合された、とても完成度の高いガトーを披露して頂きました。
パリ/シンガポール 〜PARIS/SINGAPOUR〜
シンガポールの紅茶メーカー『TWG』のテ・ブラン(白茶)を使用したボンボンショコラ。口に入れるとオパリスのミルク感と白茶の芳醇な香りが広がり、その後にセンターに仕込まれたマンゴーのパートドフリュイが追いかけます。組み合わせがシンプルなボンボンだけに、素材一つ一つの活かし方が重要となってきます。
ここで早速仕込みのポイントが。オパリスなどのホワイトチョコレートでガナッシュを仕込む場合、結晶化にゆっくり時間をかけます。それは乳成分が多く含まれているので結晶化に時間が掛かるからとの事。およそ2日〜2日半、しっかり時間をとって結晶化させていきます。滑らかなガナッシュを仕込むための秘訣ですね。更に興味深いのはセンターのパートドフリュイ。通常通り仕込み、固まった後にロボクープでクラッシュさせます。それをガナッシュを流し込んだカードルに自由に絞り出していきます。まるで真っ白なキャンバスに自由に描く様に・・・。そうして生まれたのが『パリ/シンガポール』。文化の違う2つの国がシェフの手で見事な一体感を生み出しています。ボンボンという限られた枠の中で繰り広げられる世界は、シェフの手にかかれば無限に広がって行きます。
講習会まとめ
今回の講習会で、どういった発想から完成まで持っていくかを、余すところなく披露して下さいました。そこには驚く様な観点から得たものや、日常の中の伝統ある習慣からなど、様々なシーンから得た知識を元に発想を広げられている事がお分かりになったかと思います。また、素材との組み合わせを考えるとき、その素材について辞書を用いてとことん調べつくす、というお話もされていました。この様にパティシエに必要なものは、『好奇心』・『観察力』そしてそれを元に発想を広げる柔軟な考え方・捉え方が必須であると念を押されていました。パティシエはただ流行のお菓子を作ればいい、というものではありません。その流行の発信元の中心に立ち、それと同時に自分のスタイルも貫きつつ、お客様の求めているものにも応えて行きたい、と語られていました。
パティスリー界が歩んで行く先にどんな未来が待ちうけているのかは誰も分かりません。しかし、その流れを作り牽引して行くのは、ヤン・ドゥイッチ氏の様な時代の最先端を行くシェフ達です。そんなヤン氏と共に過ごした時間は受講された方々にとっても、その最先端を垣間見る貴重な時間であった事に間違いありません。
Yann DUYTSCHE(ヤン・ドゥイッチ)氏
Yann DUYTSCHE(ヤン・ドゥイッチ)氏
1967年フランス北部生まれ。1987年にエコール・ド・ホテルリーを卒業しヨーロッパ最高級ホテルに勤務。その後南仏にあるミシュラン3ツ星レストランのシェフパティシエに就任。スペインに住居を移し、レストランエル・ラコーにてパティスリーを担当、その後ヴァローナへ。南欧担当ディレクターに就任し技術活動にあたる。そして2007年にバルセロナにて待望の自店『ドルス』をオープン。2011年にはパティシエコンクールの最高峰ともいわれる『クープ・デュ・モンド』世界大会にてスペインチームのコーチを務め、その優れた指導力を発揮して見事チームを優勝へと導く。
ヴァローナ
ヴァローナ(VALRHONA)社について
1922年フランス、ローヌ地方の菓子職人が創業。 カカオの品種や産地別に分類した商品をいちはやく展開した世界トップクラスのチョコレートメーカー。 超一流洋菓子店、レストラン、ホテルご用達の製菓材料であり、個性的な商品構成は、 その商品名が時にケーキやドリンクの名前にも付けられるほどの存在感です。 2007年には、フランスに次いで世界で2校目になるショコラの専門技術学校を、東京に設立。 さまざまな研修プログラムが用意されている。

ヴァローナ・ジャポン
http://www.valrhona.co.jp/
エコール・ヴァローナ 東京
http://www.valrhona.co.jp/ja/valrhonacontent/ecolevalrhonatokyo.htm
ヴァローナ・メールマガジン
研修や新製品などの情報が、携帯Eーメールに届きます。
ご希望の方は、こちらをご参照ください。
 
過去に開催された、講習会や教室の一覧ページ